雇用契約書をチェック! 内定時や問題発生時に確認すべきポイント
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大阪労働局によると、長時間労働が疑われるとして2020年度に監督指導が行われた事業場は、712事業所でした。監督指導された会社でも、入社前は、そのような職場環境とは想像しておらず、入ってから後悔した方もいるのではないでしょうか。
従業員として入社する際には、会社との間で雇用契約書(労働契約書)を締結します。労働条件などについて予期せぬトラブルに巻き込まれないように、入社前の段階で必ず雇用契約書の内容を確認しましょう。
今回は、入社前やトラブル発生の段階でチェックすべき雇用契約書のポイントを、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスの弁護士が解説します。
出典:「長時間労働が疑われる事業場に対する令和2年度の監督指導結果を公表します」(大阪労働局)
1、雇用契約書(労働契約書)とは?
「雇用契約書(労働契約書)」とは、会社と従業員の間で締結する契約書です。
雇用契約書には、従業員が会社で働くに当たり、適用されるさまざまな労働条件が記載されています。従業員が会社に入社する際には、正社員・パート・アルバイトなどの労働形態や契約期間などを問わず、雇用契約書を締結するケースが多いです。
なお、会社から従業員に対して「労働条件通知書(雇用条件通知書)」が交付されるケースがあります。
労働条件通知書は、労働基準法第15条第1項に基づき、会社から従業員に対して交付される書面です。労働条件通知書の記載内容は雇用契約書と重なりますが、会社が作成する一方的な通知書面である点で、会社・従業員の合意によって締結する雇用契約書とは異なります。
2、雇用契約書を締結する前にチェックすべきポイント
入社時に雇用契約書を締結するに当たっては、特に以下の労働条件を重点的にチェックしておきましょう。
雇用契約書の中で不明な点がある場合や、問題のある条項を発見した場合には、弁護士に相談してアドバイスを求めるのがおすすめです。
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(1)賃金に関する事項|基本給・手当・賞与など
雇用契約書の中で最重要と言えるのが、会社から従業員に支払われる賃金に関する事項です。
賃金にはさまざまな種類があり、主には基本給と、住宅手当・家族手当・能力手当・資格手当などの各種手当に大別されます。また、賞与が支給される場合には、その支給時期や支給基準が雇用契約書に規定されます。
各賃金をトータルして、どのような待遇で雇用されるのかを、入社前に必ず確認しましょう。 -
(2)労働時間制に関する事項|定時・裁量労働制・フレックスタイム制など
雇用契約書には、労働時間制に関する事項も記載されています。入社後の実際の働き方をイメージするうえで、労働時間制に関する事項を確認しておくことは重要です。
通常の労働時間制であれば、「月曜から金曜、9時から18時まで(12時から13時まで1時間休憩)」などと定時(所定労働時間)が定められます。
一方、裁量労働制やフレックスタイム制など、特殊な労働時間制が定められる場合もあります。ご自身がどのような労働時間制で雇用されるのかについて、雇用契約書上の規定を確認しておきましょう。 -
(3)残業に関する事項|残業の有無・上限時間など
会社が労働組合などと労使協定(36協定)を締結している場合には、入社後に残業が発生することが見込まれます。残業に関するルールも雇用契約書に記載されているので、入社前にチェックしておきましょう。
なお、残業時間は「1か月45時間・1年360時間」を超えてはならないのが、労働基準法の原則的なルールです(労働基準法第36条第4項)。
臨時的な特別の必要性があれば例外が認められますが(同条第5項)、長すぎる残業時間が設定されている場合には、弁護士にチェックしてもらうことを検討してみましょう。 -
(4)異動に関する事項|職種の範囲・転勤の有無など
入社後には、会社の裁量によって人事異動が行われる可能性があります。人事異動の範囲は、雇用契約書に明記されています。
従業員にとっては、異動先になり得る職種の範囲や、転勤の有無などが大きな影響を生じ得る事項です。不本意な人事異動が行われる可能性がないことを、入社前にあらかじめ確認しておきましょう。
3、不当解雇に遭った場合に確認すべきポイント
実際に入社して働く中で、会社との間でトラブルに発展してしまうケースも想定されます。
その中でも、従業員にとってもっとも深刻と言えるのが「不当解雇」です。理不尽な理由によって突然職を失ってしまえば、生活への支障は避けられません。
もし不当解雇に遭ってしまったら、雇用契約の内容を踏まえて、以下の対応を取りましょう。
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(1)解雇要件を満たしているかどうか|就業規則も要確認
会社が従業員を解雇するためには、解雇理由が必要です。普通解雇は、規定がなくてもできますが、就業規則がある場合には解雇事由を定める必要があります。懲戒解雇は、雇用契約や就業規則に懲戒解雇事由として定め、該当していることが必須です。雇用契約書と就業規則の内容を確認して、いずれの事由に該当しているかを検討しましょう。
なお、普通解雇事由や懲戒解雇事由に該当するとしても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効となります(労働契約法第16条)。これを「解雇権濫用の法理」と言います。
解雇権濫用の法理の適用を含めて、会社による解雇が適法であるかどうかについては、弁護士のチェックを受けることをおすすめします。 -
(2)不当解雇に関するやり取りの記録を保存する
不当解雇が疑われる場合には、解雇に関して会社と行ったやり取りの内容をすべて保存しておきましょう。
解雇について会社が短絡的な判断をしたことや、十分な改善指導が行われなかったことなどがやり取りに表れていれば解雇が無効とされる可能性が高まります。 -
(3)弁護士を代理人として会社と交渉する
日本の労働法は、会社が従業員を解雇することを厳しく制限しています。つまり、解雇は無効とされる可能性が非常に高いということです。
会社としても、法的な観点から毅然(きぜん)と不当解雇を主張されると、ある程度譲歩せざるを得ないという判断に至ることが多いでしょう。そのため従業員としては、弁護士を代理人として会社との和解交渉に臨むのが得策です。
4、残業代の未払いが発生した場合に確認すべきポイント
不当解雇と並んで、会社と従業員の間で発生する頻度が高いトラブルが、残業代の未払い問題です。
残業代の未払いが発生した場合には、以下のチェックポイントを踏まえたうえで、会社に対する請求を行いましょう。
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(1)残業の証拠を確保する
まずは、残業をしたことの証拠を確保する必要があります。
残業の証拠として利用可能な資料の例は、以下のとおりです。- タイムカードなど、勤怠管理システムの記録
- 社内システムのログイン、ログアウト履歴
- オフィスの入退館履歴
- 交通系ICカードの乗車履歴
- 業務メールなどの送受信履歴
- 残業に関するやり取りの記録
- 業務日誌
- メモ
アクセスできる証拠はできる限り幅広く収集して、残業の事実を立証できるように準備を整えましょう。
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(2)正確な残業代を計算する|基本給・手当などを確認
証拠に基づく残業時間が分かったら、請求する残業代の金額を計算します。残業代の計算に当たっては、ベースとなる1時間当たりの基礎賃金を求めなければなりません。
1時間当たりの基礎賃金は、残業代と一部の手当を除く賃金総額を、月平均所定労働時間で割ることで計算できます。
その際、賃金総額を求めるための資料として、雇用契約書や給与明細などが必要です。客観的な資料に基づき、正確に残業代を計算してください。 -
(3)弁護士を通じて会社に未払い残業代を請求する
未払い残業代の請求についても、不当解雇の主張と同様に、弁護士を通じて行うのがスムーズです。
会社としても、従業員側の主張に法的な理由があると判断すれば、すんなり残業代を支払う可能性が高いでしょう。
5、労働問題で悩んだときは弁護士にご相談を
雇用契約書のチェック、不当解雇の無効主張や残業代請求の対応など、労働問題で悩んだ場合には、気軽に弁護士へ相談してみましょう。
弁護士は、会社とのやり取りや、労働審判・訴訟などの法的手続きを全面的に代行し、スムーズに労働問題を解決できるようにサポートいたします。弁護士を通じて法的に筋の通った主張を展開することで、労働問題を有利に解決できる可能性が高まります。
会社とのトラブルに備えたい方は、実際に労務トラブルに巻き込まれてしまった方は、一度弁護士までご相談ください。
6、まとめ
雇用契約書には、入社後の労働条件が詳細に記載されています。入社してから予期せぬ労働条件が判明する事態を防ぐためにも、入社前の段階で必ず雇用契約書をチェックしておきましょう。
また、万が一会社との間でトラブルになった場合には、雇用契約書の内容を踏まえた対応が求められます。必要に応じて弁護士にご相談のうえで、会社に対して法的に筋の通った主張を展開しましょう。
ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスでは、労働問題に関するご相談を随時受け付けております。雇用契約書のチェックをご希望の就職・転職内定者の方や、会社とのトラブルにお悩みの従業員の方は、お早めに当事務所へご相談ください。
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