退職金不払い時の請求方法│準備・送付方法・行政の窓口は?

2023年01月12日
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退職金不払い時の請求方法│準備・送付方法・行政の窓口は?

最近、「退職代行サービス」を利用する人が増えているそうです。サービスの内容は、本人に代わって会社に退職を告げるというものです。ブラック企業などで怖くて辞めることすら言えないという場合に利用されることが多いようです。

退職するにあたり問題になるのが、退職金の支払いについてですが、大阪労働局の令和3年度統計年報によると大阪管内の賃金不払件数は850件で、その内12件が退職金の不払い・返還不能となっています。

特に、突然会社に行かなくなって辞めた場合や会社で問題を起こして解雇になったような場合には、退職金が支払われないことがあります。このようなとき、退職金を請求することはできるのでしょうか。ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスの弁護士が解説します。

1、退職金制度とは

「退職金」というと、会社を辞めたときにもらうものということはわかっていても、なぜ、退職金が支払われたり、支払われなかったりするのか、あるいは、具体的にどのような種類があるのかなど、わからないことも多いと思います。そこでまずは、退職金とは何か、またどのような種類があるのかについて解説します。

  1. (1)退職金の法的性質

    退職金は、会社を辞めた場合に支払われるものですが、それを支払うかどうかは会社の規定によります。国家公務員などは退職手当について国家公務員退職手当法という法律に明記されていますが、民間企業の場合には、退職金を支払わなければならないとする法律上の義務はありません。したがって、会社に退職金制度がなければ、会社は退職金を支払わなくても問題はありません。ただ、退職金の法的性質は、賃金後払い的性格も含まれると考えられており、規程がある場合には支払い義務が発生します。

    実際、大企業であれば、多くの会社で退職金制度はあると思いますし、東京都の平成30年度の調査では、従業員が10人~299人の中小企業でも71.3%の企業が、退職金制度があるとしています。

    なので、退職を考えている場合には、自分の会社に退職金制度があるか確認しておくとよいでしょう。退職金制度があるかどうかは、就業規則等の規程を見ればわかります。就業規則等の規程がどこにあるかわからない場合には、会社の人事や総務などに確認してみてください。

    なお、10人以上の労働者(パートやアルバイトなども含む)を使用する使用者は、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出る義務があります。そして、従業員に周知する義務もあるので、開示しない場合、法律違反ということになります。そのような場合には、労働基準監督署に連絡すれば、会社に対応するよう指導してくれます。

  2. (2)退職金の種類

    退職金には、一時金として支払われる形式と、年金として支払われる形式があります。主な退職金制度としてどのような種類があるのかについて解説します。

    • 退職一時金
    • 退職した際に一時金で支払われるものです。就業規則や退職金規程に支給基準が定められています。

    • 確定給付年金
    • あらかじめ決められた額の年金が支払われるものです。企業などが保険会社や信託銀行などと契約して運用するものです。就業規則や退職金規程に支給基準が定められている点は、退職一時金と同じです。制度によっては、一時金と年金を選べる場合もあります。

    • 確定拠出型年金
    • あらかじめ決められた金額を積み立て退職後年金として支払われるものです。確定給付年金との違いは、受取額が決まっていないということです。運用によって増える場合もあれば減ることもあるというものです。企業だけが拠出するものだけでなく、従業員も拠出ができるものがあります。確定給付型と異なり、退職後に受け取る年金額は最終的に個人の運用実績によって決まります。運用も銀行、生保、損保、証券会社などさまざまな金融機関が取り扱っており、豊富な商品から好きな運用をすることができます。

  3. (3)退職金の支給

    就業規則や退職金規程により退職金制度がある場合、その規程に定められた支給条件に従い退職金が支払われることになります。ただ、定年退職や会社都合による退職の場合と自己都合退職の場合で金額に違いがあることが多いものです。また、懲戒解雇の場合には不支給としているところもあります。

    ただし、確定拠出型年金については、拠出をした時点で労働者(加入者)の資産となるので懲戒解雇であっても支給されます。

2、退職金の請求方法

会社に退職金制度がある場合、たとえ会社との関係がうまくいかなくて退職した場合であっても退職金は請求できます。退職金は賃金の後払い的性格も含むものだからです。懲戒解雇の場合にはあきらめなければならないのかについては、規程の内容と懲戒解雇の内容によります。退職の種類と請求の方法について紹介していきます。

  1. (1)会社都合(定年)退職の場合

    会社都合または定年退職の場合には、特に請求をしなくても退職金が支払われることが多いですが、外部の運用機関を使っている場合、退職金請求書の提出が求められることがあります。規程に従い事務処理がなされますので、間違いがないか確認するだけで済みます。

  2. (2)自己都合退職の場合

    自己都合退職の場合も、円満退職であれば、会社都合退職の場合と何ら変わらない手続きとなります。他方、欠勤を繰り返した上で退職した場合や予告もなしにいきなり退職したような場合、会社との関係も悪くなるので、退職金がスムーズに支払われないことがあります。このような場合には、請求書を送付するなどして退職金の支払いを求める必要があります。

  3. (3)懲戒解雇の場合

    懲戒解雇は、長期の無断欠勤や犯罪行為などの懲戒事由に該当する場合に行われる解雇です。懲戒解雇の場合には、まず、規程上懲戒解雇の場合でも退職金が支給されるのか確認する必要があります。「懲戒解雇の場合には支給しない」とする規定がなければ、自己都合退職の場合と同様、支払われない場合、請求書を送付することになります。規程に「懲戒解雇の場合には支給しない」とある場合には、不支給にあたるような懲戒解雇なのかについて検討が必要になります。

    裁判では、不支給条項があっても、労働者がかなり悪質なケースでない限り、完全な不支給とはならず、個別に判断されますので、懲戒解雇だからとあきらめる必要はありません。あくまで例ですが、たとえば、勤続40年で定年間際という状況で交通事故を起こし、過失運転致傷罪に問われた場合、事故の内容にもよりますが、退職金が全く支払われないというのは妥当ではありません。そもそも、このケースで懲戒解雇になっているとすれば、解雇自体を争うことも可能でしょう。他方、入社して間もないのに、会社のお金を5000万円横領し、会社を無断欠勤したため、懲戒解雇となったような場合には不支給となってもやむを得ないように思います。

3、退職金不払いの場合

自己都合退職や懲戒解雇で会社に請求書を送付しても退職金が支払われない場合、どうすればよいのでしょうか。

  1. (1)退職金請求に向けて準備する

    退職金を請求するためには、会社に退職金について定めた就業規則か退職金規程がなければなりません。それを明らかにするため、就業規則または退職金規程を手に入れるようにします。労働契約書がある場合には、そこに退職金について記載があることもあります。

    次に、退職金制度がある場合、支給要件を満たしているかを確認します。退職金制度があっても、短期間で退職した場合などには、支給要件を満たさず退職金が支払われないとうこともあるからです。入社から退職するまでの間勤務していたことを証明する書類を準備する必要があります。具体的には、給与明細書や年金の加入記録などが証拠になります。

    退職金支給要件を満たしているという場合、会社に問い合わせできる状態であれば、会社に退職金の支払いについて確認してみるとよいでしょう。

  2. (2)会社へ請求する

    会社に問い合わせできる状況でない場合や、問い合わせても明確な根拠を示さず支払わないような場合には、請求書を送付します。「言った、言わない」といった議論にならないよう書面で明確に請求するわけです。これでも、明確な理由を示すことなく支払わないような場合には、内容証明郵便で請求します。内容証明郵便というのは、文書の内容や日時、誰から誰あてに差し出されたかということを郵便局が証明してくれる郵便です。内容証明郵便を送付することで、会社が「請求されたことはない」という言い逃れを防ぐことができます。後日、裁判になった場合にも証拠として使うことができます。

  3. (3)行政機関に相談する

    請求書を送付しても支払わないという場合、行政機関に相談するという方法があります。労働局の総合労働相談コーナーか労働基準監督署で相談を受け付けてくれます。退職金規程などを持参して、不払いであることが確認されれば、行政機関から会社に対して監督指導や是正勧告が行われます。行政機関からの指導や勧告を受けることで退職金を支払ってくることもあります。場合によっては、立ち入り調査を実施してくれる場合もあります。また、労働問題を仲裁してくれる紛争調整委員会をあっせんしてくれます。

  4. (4)ADR(裁判外紛争処理手続)の活用を検討する

    紛争調整委員会もADRですが、弁護士会や社会保険労務士会でも労働紛争に関するADRを行っています。裁判はしたくないという場合には、これらの利用も検討するとよいでしょう。

  5. (5)弁護士に相談する

    行政機関やADRを利用することで一定の効果は見込めますが、会社がかたくなに退職金を支払わないという場合、行政が行えることには限界があります。そのような場合には、弁護士に相談するしかありません。

    弁護士であれば、個別事情に応じて、会社と直接交渉をしてくれます。弁護士が会社と交渉しても退職金を支払わない場合には、裁判所を利用して解決を図ります。具体的には、労働審判などの手段があります。それでも解決しない場合には、通常の裁判ということになります。

4、まとめ

退職というのは、理由はともあれ人生の転機になります。できれば気持ちよく退職したいものですが、退職金は、本来受け取るべき賃金的なものなので、退職金が支払われない場合には、泣き寝入りすることなくしっかりと請求しましょう。

退職金の時効は5年なので、のんびりしているとあっという間に過ぎてしまいます。相手は企業なので、個人がひとりで戦うには難しいところがあります。早めに、行政機関や弁護士に相談することをおすすめします。

当事務所には、労働問題に対応した経験が豊富な弁護士がおりますので、十分なサポートを行うことが可能です。もしも退職金の不払いでお悩みを抱えているようでしたら、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスまでお気軽にご相談ください。

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