ブラック企業だからといって残業代を請求しないのは損?弁護士による残業代請求を知っておこう
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「毎日たくさん残業しているのに、会社から残業代が出ない。うちはブラック企業だから仕方ないのかなぁ。」あなたもこんな悩みを持っていませんか?
相手がブラック企業だからと諦めず、労働者の正当な権利を受け取るためにも、今回は残業代の基礎知識と、弁護士に残業代請求を依頼した場合のメリットについて解説したいと思います。
1、残業代請求とは
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(1)労働基準法上の労働時間
労働基準法では、1日の労働時間を8時間、1週間の労働時間を40時間と定められています。
ただし、会社が労使協定を締結し、それを労働基準監督署に提出している場合は(いわゆる36協定)、この労働基準法に定められた労働時間を超えて、会社は労働者を働かせることができます。 -
(2)割増賃金に関する定め
もっとも、36協定が締結されている場合であっても、会社が1日8時間、週40時間を超えて労働させた場合、超過する部分については、割増賃金を支払わなければなりません。具体的には、通常の1時間当たりの賃金の125%の額の割増賃金を支払わなければなりません。
また、労働基準法では、会社は労働者に対して、週に1日は必ず休日を与えなければならないと定められています。週1日の休日を与えず、7日間連続で働かせるような場合も、割増賃金(通常の1時間当たりの賃金135%の額)を支払わなければなりません。
さらに、労働者を午後10時から午前5時までの間に働かせた場合も、会社は通常の賃金に加えて、割増賃金(通常の1時間当たりの賃金の25%の額)を支払わなければなりません。
一般的に残業代請求と呼ばれているものは、上記の割増賃金のことを指します。 -
(3)時効
割増賃金の時効は2年とかなり短いです。そのため、早めの対処が必要となります。
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(4)ブラック企業の特徴
法律上は割増賃金を支払わなければならないのに、ブラック企業は様々な理由を付けて割増賃金の支払いを拒否します。
・そもそも割増賃金は発生していないという場合
その会社の就業規則や雇用契約書では、割増賃金が発生しないことになっているという理由で、割増賃金の支払いを拒否するということがあります。しかし、労働基準法の割増賃金に関する定めと異なる内容の就業規則や雇用契約書の条項は無効です。
そのため、そのような就業規則や雇用契約書の条項を根拠として割増賃金の支払いを拒むことはできません。
また、定時になると勝手にタイムカードを切るなどの方法で、その後残業しているにもかかわらず、残業していなかったことにして割増賃金の支払いをしないということもあります。
当然のことですが、このような場合でも、実際に残業させているのであれば、会社は割増賃金の支払う義務を負っています。残業していることの証拠はタイムカードに限られませんので、タイムカードに代わる証拠があれば割増賃金の請求は可能です。
・割増賃金は支払い済みであるという場合
毎月定額の手当(いわゆるみなし残業代)を支払っているのであるから割増賃金は支払い済みであるという理由で、会社が残業代の支払いを拒否する場合があります。そのような場合であっても、その手当が割増賃金の支払いであることが就業規則の定めなどから明らかでなかったり、労働基準法上支払わなければならない割増賃金の額を下回っていたりするときは、割増賃金の請求をすることができます。
また、残業代は基本給に組み込まれているため支払い済みであると会社が主張する場合もあります。
このような場合でも、就業規則の定めなどから、基本給のうち割増賃金に相当する部分が明確に区別できない場合は、割増賃金の請求が可能です。
ブラック企業が割増賃金を拒む理由は上記のものに限られず様々ですが、法的には残業代を支払わなければならない場合が多くあります。ブラック企業の言うことを鵜呑みにせず、自分で判断できないときは弁護士等の専門家に相談することが肝要です。
2、証拠の確保
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(1)証拠の重要性
いくら長時間の労働や休日出勤、深夜労働をしていたとしても、証拠がなければ、そもそも割増賃金の計算を行うことが困難です。
仮に裁判になったとしても、割増賃金の支払いが認められない可能性が高くなってしまいます。そのため、証拠を確保することが重要となります。 -
(2)証拠となるもの
① タイムカード
労働時間を立証する資料としてまず挙げられるものがタイムカードです。
タイムカードは信用性が高く、特段の事情がない限りタイムカードに記載されたとおりの労働時間が認定されます。
そのため、可能であれば、タイムカードを会社に知られないようにこっそりコピーしておくことをお勧めします。会社に割増賃金の請求をしようとしていることを知られると、タイムカードに限らず証拠の収集をしようとしても妨害される可能性があるので注意が必要です。
とはいえ、タイムカードが存在しないという会社もありますし、タイムカードはあるが、入手できないということもあります。その場合は、タイムカード以外の資料で労働時間を立証することになります。
② 業務日報
労働者が業務日報に始業時間と終業時間を記入し、これにより会社側が労働時間を把握している場合、この業務日報も労働時間の立証に役立つ資料となります。
③ メールの送信時刻
職場内のパソコンから送信したメールであって、メールの内容も職務に関係するものであれば、労働時間の証拠となる可能性があります。
④ タコグラフ
トラック運転手などの業務の場合は、自動車の運転時間や走行距離等が記載されているタコグラフが存在する場合があります。タコグラフも労働時間を立証するための有力な資料となります。
⑤ 労働者のメモ
労働時間の証拠としては他にも、パソコンのログデータ記録、シフト表などが挙げられます。
しかし、どうしても証拠がないという場合は、労働時間についての労働者のメモ等も証拠となり得ます。始業時間と終業時間を後日思い出して書くと言うのではなく、その日のうちに毎日記入したものであって、これと整合するような他の証拠がある場合は、その信用性が認められる可能性があります。
⑥ その他
割増賃金を計算するためには、毎月の給与の額や所定労働時間、休日等を把握しなければなりません。
そのため、上記の証拠以外にも、就業規則や給与明細も証拠として必要になります。
労働基準法上、会社は就業規則を職場の見やすい場所に備え付けるなどの方法で周知する義務を負っています。そのため、就業規則をコピーしておくことをお勧めします。
また、給与明細は重要な証拠ですので、捨てずに必ず保管するようにしましょう。
3、労働基準監督署の利用
法律上は割増賃金の請求が可能であるし、証拠もそろっているという場合であっても、ブラック企業は労働者からの割増賃金の支払い請求を無視するということが多々あります。このようなときの対処法としては、労働基準監督署の利用が考えられます。
割増賃金の不払いについては労働基準法で、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が定められています。
労働基準監督署は労働者からこのような法律違反の申告があった場合、会社に対して調査を行います。具体的には、会社に対して書類の提出や尋問などを行う権限が与えられています。
調査の結果、法律違反が認められると、労働基準監督署から会社に対して指導や是正勧告がなされます。また、上記のように刑事罰が定められているため、送検されることもあります。
いくらブラック企業とはいっても、調査を受けるだけでもかなりの負担になるので、労働基準監督署の利用は、有効な対処方法のひとつと言えるでしょう。
しかし、労働基準監督署の指導や是正勧告が行われなかったり不十分であったりすることもありますし、会社がこれに従わないということもあり得ます。労働基準監督署は弁護士と違って労働者の代理人として割増賃金の支払いを請求するわけではないので、このような場合は、他の手段を用いるしかありません。
4、訴訟の提起
話し合いによる解決が困難である場合は、会社を被告として訴訟を提起することが考えられます。
訴訟を提起した場合、裁判を欠席してしまうとそのまま判決が出てしまうので、会社としても無視するわけにはいきません。
十分な証拠があり、労働者の勝訴判決が出た場合、その判決に基づき、会社に対して、財産の差押え等の強制執行を行い、未払いの割増賃金を回収することができます。
また、訴訟を提起した場合、未払い割増賃金に加えて、さらに未払い割増賃金と同額の付加金を請求することもできます。
もっとも、訴訟を提起して割増賃金を請求するには、さまざまな書類の提出が必要であったり、法律が難解であったりするため、弁護士に依頼せず、個人で行うことは困難です。
さらに、訴訟を提起してから判決に至るまでにはかなりの時間がかかるのが通常で、判決が出るまでに1年かかるということも普通です。
5、弁護士に依頼した場合のメリット
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(1)割増賃金の正確な額を把握することができる
割増賃金の計算は複雑であるため、労働者が自分で計算するのが難しいということも多々あります。
また、割増賃金を計算するための十分な資料が手元にそろっていないということもあります。
弁護士に依頼した場合、弁護士から会社に対して、タイムカード等の資料の開示を求め、開示された資料をもとに割増賃金の正確な額を計算し、会社に対して未払いとなっている割増賃金の支払いを請求します。
会社が資料の開示に応じない場合であっても、すでに手元にある資料に基づいて推定計算を行い、割増賃金の請求をすることも可能です。 -
(2)自身で交渉した場合よりも高額の残業代が支払われる可能性が高い
労働者が自身で会社に対しても、会社から無視されたり、わずかな額しか支払われなかったりすることがほとんどです。しかし、そのような場合であっても、弁護士が代理人となって交渉を行うと、素直に残業代の支払いに応じる場合があります。
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(3)ブラック企業と直接交渉しなくて済む
ブラック企業は様々な理由を付けて割増賃金の支払いを拒否してきますが、普通の労働者にとってはそれが正しいことなのか判断することが難しいのが通常です。
また、ブラック企業に対して割増賃金の請求をすると、非常に威圧的な態度で応答され、労働者にとってかなりの負担となることがあります。
弁護士に依頼した場合は、ブラック企業が法的に理屈のとおらない主張をしていてもそれを見抜くことができますし、労働者が直接威圧的な態度を受けることもなくなります。 -
(4)訴訟を提起することができる
すでに述べたように、労働者自身で訴訟を提起することは困難ですが、法律の専門家である弁護士に依頼していれば、複雑な裁判手続をすべて弁護士にゆだねることができます。
訴訟を提起すれば、付加金の請求をすることができますし、会社が判決後も支払いに応じない場合は強制執行をすることもできます。 -
(5)費用について
弁護士に依頼するとなると、高額の弁護士費用を支払わなければならないと思って躊躇される方もいらっしゃると思います。しかし、割増賃金の請求については着手金無料としている法律事務所もありますので、一度相談に行ったついでに料金について聞いてみるとよいかもしれません。
最後に
相手がブラック企業であるからといって、割増賃金の請求をためらう必要はありません。どうしようか悩んでいるうちに時効が成立してしまうこともあります。
ご自身で対応することに抵抗がある場合は、気軽に弁護士に相談してみることをお勧めします。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています