刑務所にいる夫と離婚したい! その方法を弁護士が解説
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大阪市が公表している「人口動態総覧」によると、平成30年度の大阪市内での離婚件数は、5772件でした。大阪市の人口千対の離婚率は2.13ですので、同年度の全国の離婚率1.68と比べても非常に高い水準であることがわかります。
夫が罪を犯して刑務所に入ることになったときには、周囲の目や世間体を気にして、夫との離婚を考えることもあるでしょう。何年もの間刑務所に収監されることになれば、婚姻関係を継続しているメリットも少なくなりますので、離婚を決断するということも十分に理解できるところです。もっとも、刑務所に収監されている状態では、話し合いも十分にできませんので、通常の離婚の手続きとは異なる部分もあります。
今回は、刑務所にいる夫と離婚をする方法について、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスの弁護士が解説します。
1、刑務所にいる夫と離婚することは可能?
一般的な離婚の手段としては、協議離婚、調停離婚、裁判離婚の3つがありますが、服役中の旦那と離婚する場合にはどのような手段で離婚をすればよいのでしょうか。
以下では、3つの離婚の手段に分けて刑務所に服役中の夫と離婚する方法について説明します。
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(1)協議離婚をする方法
夫婦が離婚をするときには、まずは夫婦が離婚についてお互いに話し合いを行います。そして、離婚について合意ができたときには、市区町村役場に離婚届けを提出する方法によって離婚が成立します。これを協議離婚といい、約9割の夫婦が協議離婚によって離婚をしているといわれています。
夫が刑務所に服役しているときには、そもそも話し合いことが不可能では?と思うかもしれません。しかし、夫が刑務所に服役しているときであっても協議離婚によって離婚をすることは可能です。
刑務所に服役している状態であっても、刑務所内で家族と面会することはできます。夫と面会をして、妻から離婚の意思があることを伝え、夫に離婚を同意してもらえるように説得します。
夫が離婚に同意してくれたときには、離婚届けを差し入れて、離婚届に署名してもらいます。押印してもらう必要はありません。
なお、夫から受けたDVが原因で服役しているケースでは、夫と面会する気持ちにはならないでしょう。そのようなケースでは、離婚をしたい気持ちを書いた手紙と離婚届を夫が服役する刑務所に送って、署名したものの返送を求めるという方法をとるとよいでしょう。 -
(2)調停離婚する方法
一般的に協議離婚によって離婚することができないときには、次の段階として家庭裁判所に対して調停離婚を申し立てることになります。
しかし、夫が刑務所に服役しているときには、離婚調停を申し立てる方法は、ほとんど意味をなしません。なぜなら、離婚調停は、裁判所の調停期日にお互いが出頭して、話し合いによって離婚を成立させる手続きだからです。刑務所に服役している状態では、そもそも裁判所に出頭することができませんので、話し合うことすらできません。裁判所に来ることもできない状態では、調停を申し立てたとしても、不成立となってしまいますので、意味がない手続きといえます。
したがって、夫が刑務所に服役しているケースでは、調停離婚を申し立てずに裁判離婚へ進むことになります。 -
(3)裁判離婚をする方法
刑務所に服役している夫が離婚を拒否しているために協議離婚ができないときには、離婚裁判を起こすことになります。
法律上、離婚裁判を起こすためには、その前提として離婚調停を申し立てていなければなりません。これを調停前置主義といいます。しかし、夫が刑務所に服役しているケースでは、前述のとおり、調停を申し立てることは無意味ですので、そのような場合には、調停前置主義の例外として、離婚調停を申し立てていなくても、いきなり訴訟を提起することが可能です。
もっとも、夫が犯罪者であるという理由だけで裁判離婚をすることは難しいといえます。どのような場合に犯罪者の夫と離婚できるかについては、以下の項目で詳しく説明します。
2、夫が離婚を拒否している場合は?
夫が離婚を拒否しているときには、協議離婚はできませんので、離婚裁判を起こすことになります。しかし、裁判で離婚を認めてもらうためには、民法が規定する法定の離婚事由が存在していることが必要になります。
夫が刑務所に服役しているケースでは、どのような事情が法定の離婚事由に該当することになるのでしょうか。
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(1)殺人や性的暴行などの重大な犯罪で服役している
夫が刑務所に服役した理由が殺人や性的暴行など重大な犯罪行為であったときには、法定の離婚事由に該当する可能性があります。
刑務所に服役している夫と裁判離婚をするためには、民法770条1項5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」に該当するかどうかがポイントです。
上記の重大な犯罪行為で刑務所に服役したときには、その犯罪による社会的影響力の大きさから妻や子どもに対する影響も計り知れないものになります。重大な犯罪行為をした配偶者と正常な婚姻生活を送ることができないというのは、ある程度当然のことといえますので、裁判になった場合でも、婚姻を継続し難い重大な事由を該当してもらいやすいといえます。
逆に、軽微な犯罪行為での服役であったときには、婚姻関係の破綻を認めてもらうためのハードルが高くなります。 -
(2)妻に対するDVが原因で服役している
夫が刑務所に服役することになった理由が妻に対するDVであったときには、民法770条1項5号の離婚事由が認められる可能性があります。
一般的に配偶者からDVの被害を受けていたということは法定の離婚事由に該当する事情です。DVが原因となって刑務所に服役することになったのであれば、刑事裁判によってDVをしていた事実が証拠上認められ有罪となったといえます。
そのため、離婚裁判になったとしても、DVがあったという事実は、刑務所に服役していないケースと比べて容易に認められるので、離婚が認められる可能性が高いといえます。 -
(3)前科があることを隠して結婚した
刑務所に現在服役しているというケースとは異なりますが、前科があることを隠して結婚したケースでも裁判離婚が認められることがあります。
前科があるということは、結婚するかどうかを決めるにあたって、重要な要素となります。
そのため、そのことを隠して結婚をしたケースでは、婚姻を継続し難い重大な事由に該当することがあります。ただし、どのような前科でも離婚が認められるわけではなく、一定の重大な犯罪の前科に限られるでしょう。
3、犯罪を行った夫と離婚するときの事前準備
犯罪を行った夫と離婚をするには、通常の離婚とは異なる配慮が必要な場合があります。そのため、事前にきちんと準備をしておくことが重要です。以下では、犯罪を行った夫と離婚するにあたって準備すべき事項について説明します。
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(1)生活環境を変える
たとえば、夫が殺人や性的暴行などの重大な犯罪を行ったときには、マスコミが押し掛けるなどして自宅を知られてしまう可能性があります。そうすると、近所の人からは好奇の目で見られてしまったり、場合によっては嫌がらせなどをされる可能性もあります。子どもが小さいときには、子どもに対する影響も大きなものになります。
そのため、夫が犯罪を行なったときには、現在の自宅から引っ越すなどして生活環境を変えることが必要となることもあります。 -
(2)保護命令
保護命令とは、配偶者からの身体的暴力を防ぐために、裁判所に対して申し立てを行うことで、接近禁止命令などの命令を出してもらう制度のことをいいます。
夫からのDVによって身体的暴力を受けている方は、再度身体的暴力を受けることを防止するためにも、保護命令の申し立てをすることが有効なことがあります。
ただし、すでに夫が刑務所に服役中であれば、今後、身体的暴力を振るわれて生命身体に重大な危害を受けるおそれがあるとはいえませんので、申し立てをしても認められない可能性が高いです。保護命令を申し立てるのであれば、夫が刑務所に行く前か、刑務所から出所した後に申し立てるのがよいでしょう。
4、離婚の相談は弁護士へ
刑務所に服役している夫との離婚を考えているのであれば、弁護士に相談をすることをおすすめします。
刑務所に服役中の夫と離婚をするためには、通常の離婚と異なる配慮が必要な場合があります。また、刑務所に服役をした理由によっては、当事者同士が直接話し合いをすることができず、協議離婚を進めることができないことがあります。
そのようなときには、弁護士が代理人として、刑務所に服役中の夫を相手に交渉をすることもできますし、婚姻費用(生活費)や損害賠償請求(慰謝料請求)などの複雑な離婚手続きについても専門家として適切に進めることが可能です。
DVの被害者であれば、夫が刑務所に服役するようになる前から弁護士に相談をすることによって、保護命令などによってDV被害から身を守ることができますし、早期に離婚を成立させ、新たな人生の再出発をサポートをすることができます。
5、まとめ
今回は、刑務所に服役中の夫と離婚する方法について解説をしました。刑務所に服役中の夫と離婚をする際には、調停を申し立てなくても離婚裁判を起こすことができるというメリットがありますが、それ以外の部分では、通常の離婚よりも複雑な手続きとなります。そのため、刑務所に服役中の夫と離婚をするためには、専門家である弁護士に依頼をして進めていくとよいでしょう。
刑務所に服役中の夫との離婚でお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています