家族経営の離婚において注意すべき4つのポイントについて解説
- 離婚
- 家族経営
- 離婚
大阪市が公表している令和3年の人口動態統計によると、令和3年の離婚件数は5067 件でした。令和3年の大阪市の離婚率(人口千対)は、1.84であったことから、全国の離婚率(人口千対)1.50と比較しても大阪市の離婚率は高いということがわかります。
離婚する夫婦のなかには、夫が経営する会社に妻が役員や社員として働いているということもあります。一般的なサラリーマンの家庭と異なり、家族経営をしている夫婦が離婚をするときには特有の問題があるため、離婚にあたっては注意すべきポイントがあります。
本記事では、家族経営の離婚において注意すべきポイントについて、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスの弁護士が解説します。
1、家族経営の離婚は、通常とは異なる問題点が多い
家族経営をする夫婦が離婚する場合には、一般的なサラリーマンの家庭と比べて、以下のような問題が生じることがあります。夫婦の問題だけでなく、家族経営をする会社にまつわる問題も併せて生じるという特殊性があります。
-
(1)財産分与や養育費の額が高額になる
会社を経営している方は、一般的なサラリーマンに比べて所得や保有する資産の額も多くなる傾向にあります。そのため、財産分与や養育費の額が高額になり、かつ財産分与の方法が複雑になる傾向にあるでしょう。
-
(2)社員や役員に配偶者がなっていることがある
会社を経営している方は、配偶者を従業員として雇用したり、配偶者が会社の役員を務めたりしていることがあります。その場合、離婚後も会社で家族や親族と関わりを持つことになるでしょう。そこで、離婚に伴って配偶者に社員や役員を辞めてもらうことができるのか、という問題が生じます。
-
(3)会社の株式の処理
家族経営の会社では、家族が株式を保有しあっているケースがあります。離婚後も元配偶者が会社の株式を保有していると、会社の方針決定をする際には、その都度元配偶者の協力が必要になります。
そのため、離婚にあたって株式の譲渡を受けるなどして処理をしておかなければならないという問題が生じます。 -
(4)会社に対する貸付金の処理
配偶者が会社に対して貸付金を有する場合には、離婚に伴って貸付金の清算が必要になることもあります。貸付金の清算は、夫婦の問題ではなく、配偶者と会社との問題になりますが、家族経営の会社であれば、離婚の問題と併せて解決したほうがよいケースもあります。
2、家族経営の離婚における財産分与について
財産分与(民法768条)とは、婚姻期間中に築いた夫婦の共有財産を分ける制度のことをいいます。家族経営の離婚にあたっては、財産分与について特有の問題が生じることがあります。
-
(1)財産分与の割合が2分の1とは限らない
一般的な家庭の場合、財産分与の割合は2分の1が原則とされています。これは、夫がサラリーマンで妻が専業主婦の家庭であっても変わりません。専業主婦であっても、家事労働によって夫婦の資産形成や維持に貢献をしていたということを考慮したものです。
もっとも、家族経営の夫婦の場合、経営者自身の才能と努力によって事業を拡大し利益を得ているという側面があります。財産分与の制度は、夫婦の財産形成や維持に対する貢献度に応じて財産を分与する制度ですので、個人の才能や努力によって形成された財産については、2分の1の割合を修正するということも十分にあり得ます。
家族経営の夫婦の場合には、資産形成・維持に関する具体的な事情次第では、資産形成に関与しなかった配偶者の財産分与の割合が低く評価されることもあります。 -
(2)会社の資産は原則として財産分与の対象外
財産分与は、あくまでも夫婦の財産を分与する制度であるため、会社名義の財産は財産分与における分与対象にはなりません。
もっとも、家族経営の会社の場合には、経営者個人の財産と会社の財産が明確に区別されていないことがあります。会社名義の財産であっても実質的には個人の財産と評価できるものであれば、例外的に財産分与の対象となることもあります。 -
(3)株式の評価の方法が特殊
家族経営する会社の株式が財産分与の対象になる場合には、その株式を適正に評価する必要があります。上場企業の株式であれば市場価格があるため、評価をするのは簡単です。しかし、家族経営の会社は非公開株式であることが多く、その評価方法は非常に複雑になります。一般的には、親族が株主や役員となって経営している同族会社の場合、純資産価額方式と類似業種比準方式という評価方法が用いられることが多いです。
評価方法を誤ると不利な内容の財産分与になってしまうため、専門家に依頼して適切に評価をしてもらいましょう。
3、家族経営の離婚における役員の解任や社員の解雇について
家族経営の夫婦の場合、配偶者を役員や社員にしていることが多いです。円満な婚姻生活を送っていれば特に問題はありませんが、離婚となったときには、さまざまな理由から役員や社員を辞めてもらいたいと思うことがあるでしょう。
離婚を理由に役員や社員を辞めてもらうことはできるのでしょうか。
-
(1)配偶者が役員になっている場合
取締役などの役員と会社との関係は、委任契約であり、役員の任期が定められています。任期は原則として2年とされていますが(会社法332条)、定款によって別の定めを置くこともできるため、定款を確認する必要があります。任期が満了した場合には、再任されなければ、役員としての地位はなくなります。
任期満了まで相当な期間が残っている場合には、株主総会の普通決議によって役員を解任することができます(会社法339条1項)。経営者側が議決権の過半数を有しているときには、解任という方法によって役員の地位を失わせることが可能です。ただし、正当な理由なく解任をしたときには、配偶者から損害賠償請求されるおそれがあります(会社法339条2項)。 -
(2)配偶者が社員になっている場合
社員と会社との関係は雇用契約(民法623条)であるため、離婚をしたという理由だけで解雇することは不当解雇となります。離婚という夫婦の問題と雇用契約は全くの別問題です。
家族経営の会社では離婚後に配偶者の方が働きづらいということもあるため、解雇ではなく、話し合いによって円満に退職してもらうように働きかけるとよいでしょう。
4、家族経営の離婚における慰謝料について
慰謝料については、家族経営に特有の問題はありません。経営者であれば資産も多いのであるから、慰謝料の金額も一般的な家庭よりも多く払われると思いがちですが、実際には、経営者だからといって高額な慰謝料となるわけではありません。慰謝料は、あくまでも精神的苦痛に対する金銭的な賠償であるため、どのくらいの精神的苦痛を被ったのか、ということが重要な要素になります。
婚姻期間中にDVや不倫をしていた場合には、その期間や内容、悪質性などに応じて慰謝料の金額が決められます。離婚にあたって有責性があるときには、高額な慰謝料を請求される可能性があります。
5、子どもがいる場合の親権について
家族経営をしている方のなかには、将来自分の子どもに会社を継がせたいと考えている方もいます。その場合、離婚にあたっては、当然親権を取得したいと考えるでしょう。
親権者をどちらにするかについては、まずは夫婦の話し合いによって決めることになります(民法819条1項)。話し合いで解決しないときには、家庭裁判所の調停によって決めますが、それでも決まらない場合には、裁判所が親権者を決めることになります(民法819条2項)。
親権者を決める際には、環境の継続性、双方の監護状況、子どもの意思、親族の協力などの要素を総合的に考慮して決めることになります。また、子どもが幼い場合には、母親が優先される傾向があります。
経営者として経済的余裕があるという事情は、親権者決定にあたっては重要な要素にはなりませんので、注意が必要です。配偶者に子どもを連れて自宅を出て行かれた後では、親権を取得することが困難になることがあります。そのため、親権の取得を考えている方は、早期に専門家である弁護士に相談して、親権を取得できる環境を整えておくことが重要になります。
6、まとめ
家族経営をする夫婦が離婚する場合には、一般的な家庭とは異なり家族経営特有の問題が生じることがあります。
経営者の保有資産が多い場合には、財産分与が高額となる傾向にあります。きちんと対策をとることなく安易に2分の1の割合で財産分与をしてしまうと、思いもよらない不利益を被ることもあります。
また、家族経営の会社の場合には、個人と会社を明確に区別できていないことがあるために、離婚にあたってはさまざまな問題が生じます。離婚を理由に解雇をした結果、不当解雇だとして損害賠償請求を受けることもあるため慎重な対応が必要です。
家族経営をしている方で離婚をお考えの方は、弁護士によるサポートを受けることで適正妥当な内容での離婚を進めることが可能です。離婚についてお悩みの経営者の方は、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています