試用期間に解雇したい! トラブルを回避できる手続きの進め方とは
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令和元年10月、大阪に本社を構える企業での試用期間中に退職した元従業員が、辞めさせられたことを理由に同社に対して業務妨害行為をした容疑で逮捕されたという報道がありました。大抵の場合、従業員は試用期間を経て特に問題なく本採用となります。しかし試用期間中の従業員の中には、遅刻ばかりしてくる、能力的にも不足しており他の社員の足を引っ張っているような人もいるかもしれません。このようなとき、従業員を雇用する側の企業としては,試用期間のタイミングで解雇したい、できれば穏便に辞めてもらいたいと思うことがあるでしょう。
一方で、トラブルは避けたいはずです。解雇後に労働基準法違反を理由に民事訴訟を起こされたり、労働基準法違反で刑事事件になったりすれば、企業イメージにも傷がついてしまいかねません。
今回は試用期間中の労働者の解雇に着目し、労働者の解雇が難しい理由、トラブルなく解雇するために気をつけたいポイントについて解説します。
1、解雇が難しい理由
解雇とは、企業側から労働契約を解約することです。就業規則や雇用契約書には、解雇事由や解雇予告について記載されています。そのためか、それに該当すれば問題なく従業員を解雇できると思いがちです。
しかし、労働基準法や労働契約法によって,労働契約を締結した労働者は手厚く守られています。各法で規定された労働者とは、いわゆる社員や従業員などの正規雇用者だけでなく、パートやアルバイトなどの非正規雇用者も含まれていることにも注意が必要です。いずれも、適法に解雇するためのハードルは高いということを知っておきましょう。
まず、就業規則などに記載されている解雇事由に該当したとしても、それはあくまでも自社の判断であり、必ずしも適法とは言えないと判断されることもあり得ます。解雇が,客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇権の濫用として無効となる(違法解雇となる)のです(労働契約法第16条)。
また、労働基準法では解雇に関して以下の項目が規定されています。
- 解雇事由を明示すること
- 解雇の30日前に予告をすること
- 上記の解雇予告を規定日までに行わない場合は、解雇予告手当を支払うこと
労働者を解雇したいと思っても簡単にはできない状況にあることはご理解いただけたのではないでしょうか。
2、試用期間中の解雇は可能か
一般的に、本採用の前に3か月程度の試用期間を設けている企業が多くあります。ただし試用期間中はまだ本採用ではないため、解雇は問題なくできるのではと考えておられるかもしれません。
しかし結論から言うと、本採用後の契約に比べて広い範囲で解雇の適法性が認められる傾向にこそありますが、まったく自由とは言えません。
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(1)試用期間は労働契約を締結している?
過去の判例の考え方からすると、試用期間においても,従業員は企業と「解約権留保付労働契約」を締結していると判断されることが多いと思われます。「解約権留保付労働契約」とは、解約権を企業が留保した労働契約です。
それでも、試用期間は労働契約を締結していることには変わりありません。企業が解約権を留保しているのだから、企業の側から自由に解約できるイメージがあるかもしれませんが、上述のとおり労働契約を締結した労働者は手厚く守られており、雇用する企業側から自由に解約できないのです。
厚生労働省が運営する労働条件に関する総合情報サイト「確かめよう労働条件」でも、「試用期間である以上、解約権の行使は通常の場合よりも広い範囲で認められますが、試用期間の趣旨・目的に照らし、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当とされる場合にのみ許されます。」と明言されています。 -
(2)適法な採用見送り事由
過去の判例などに照らし合わせ、試用期間に採用を見送る、つまり適法に解雇できる可能性がある事由は以下のとおりです。
- 勤務態度が極めて悪く、他の従業員に悪影響を及ぼす
- 無断欠勤、遅刻などを正当な理由なく繰り返す
- 採用した際に提出した履歴書に虚偽の事実がある
ただし上記はあくまでも一例です。当然のことながら問題なく解雇ができると断言はできませんのでご注意ください。
3、試用期間中の解雇手続きの流れ
試用期間中の解雇についても基本的に、本採用後と同様の手順を踏む必要があります。
たとえば、遅刻や欠勤、勤務態度が悪いことを口頭で数回注意しただけで即刻解雇することはできません。何度も注意し、話し合い、教育を繰り返す必要があります。それでも改善されないという事実がなければ解雇に踏み切ることはできません。これは本採用後の解雇と同様です。
また解雇をするには、労働基準法第20条にもとづき、30日前に解雇予告を行う必要があります。30日に満たない期間で解雇予告をする場合は、解雇予告手当を支払う必要があるのも本採用同様です。
1点異なるのは、試用期間がスタートして14日以内に解雇する場合に限っては解雇予告が不要である点です(労働基準法第21条4号)。ただし、14日以内であれば無条件に解雇ができるわけではありません。解雇に相応する事由を満たしており、かつ労働者の勤務態度に対する注意や指導などが適切に行われていることが前提ですので注意が必要です。
当然ですが、試用期間中の労働者にも就業規則を提示し、解雇事由の説明が必要です。また試用期間中に解雇する特別な事由がある場合は、事前に雇用契約書に明記しておくようにしましょう。さらに、試用期間中の従業員から解雇理由証明書を求められた場合は、書面で渡す必要があります。
4、試用期間の解雇における注意点
最後に、試用期間中の解雇に際して知っておきたい注意点をご紹介します。
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(1)試用期間の長さに注意
試用期間をあまりにも長く設定しないようにしてください。試用期間は,採用しようとする者の資質、性格、能力、適格性の有無に関連する事項について、調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものですから、その目的達成に必要な期間を超えた期間は試用期間とは認められません。一般的には3か月が目安であり、長くても6か月までにしましょう。過去の判例をみても、あまりに試用期間が長いケースやむやみに延長されるケースなどは、試用期間が無効とされることがあります。これは労働者が不当に長い間不安定な地位に置かれることを防ぐためです。
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(2)解雇事由は正当か?
未経験者や新卒採用者の場合、不慣れな仕事にとまどうこともあるでしょう。初めての社会人ということで仕事が円滑に進められないことがあっても無理はありません。それに対して能力不足を理由に解雇することは適法とは言えません。
また、社内ルールで試用期間後に行われる社内テストに合格した者のみ正社員とすることを定めていたとしても、該当の従業員がテストに突破できないことを理由に解雇することはできません。実際の裁判例でも、試用期間後に行われた試験が不合格だったという理由による解雇が認められなかった裁判例があります(昭和59年3月23日 名古屋地方裁判所判決)。 -
(3)十分な指導が行われているか?
仕事に慣れてもらうため、あるいは勤務不良を正すため、指導や注意を十分行った結果の解雇でなければ、不当解雇とみなされることがあります。過去の判例でも試用期間中の解雇を性急過ぎる不当解雇だとしたケースもあります。
したがって、たとえ経験者や中途採用者であっても、短い試用期間で、営業成績が出ない、即戦力にならないからと簡単に解雇することはできないと考えられます。たしかに、試用期間は、企業側にとっては労働者の適性や性格などを見極める判断期間でもあります。しかし、企業ごとに社内運用ルールや営業の手法は異なるものです。そのため、あまりに早い段階での解雇は正当だとは言えません。本契約同様,解雇に,客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であるかを判断する必要があります。
5、まとめ
試用期間中であれば自由に解雇できると考える経営者や採用担当者は少なくないようです。解約権が留保された契約には違いありませんが、試用期間中の解雇で不当解雇だと訴えられるケースもあります。思わぬトラブルを避けるためにも、解雇事由が適切なのかを判断すること、解雇予告など決められたルールを守ることが大切です。
試用期間中の労働者の解雇を考えているが、トラブルなく進めたいという方は、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスで相談してください。過去の判例や法的知識、過去に対応した豊富な知見にもとづき、適切なアドバイスを行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています