圧迫面接で訴訟は起こせる? 取り締まる法律はないの?

2022年07月21日
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圧迫面接で訴訟は起こせる? 取り締まる法律はないの?

企業の採用面接は、雇用関係を結んだあとで、使用者と労働者がお互いに「こんなはずではなかった……」とならないようにする重要な手続きです。

しかし、お互いに初対面であるためか、発言の意図がうまく伝わらずにトラブルに発展するケースが少なくありません。厚生労働省の大阪労働局でも、採用担当者の不適切な質問の例を列挙していますが、採用担当者に対する不満の声は変わらず聞かれます。

そこでこの記事では、採用面接のトラブルの中でも、特に求職者の頭を悩ませている圧迫面接について、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスの弁護士が解説します。訴訟は起こせるのか、取り締まる法律はないのか、詳しく説明しているのでご参考ください。

1、圧迫面接とは

圧迫面接とは、採用担当者が否定的な発言を繰り返すなどして、求職者にストレスを与える面接です。よく見られるケースとして、次の4つがあります。

  1. (1)求職者が答えられなくなるまで質問を繰り返す

    求職者に対して、求職者の回答にかかわらず否定的な質問を繰り返したり、「それで?」「その理由は?」といった発言を執拗に繰り返し、回答ができなくなるまで追い込んだりするような手法は、圧迫面接として多くの方に認知されているでしょう。

  2. (2)上から目線の発言をする

    「うちの会社には向いていない」「そういった考えでは通用しない」など、上から目線の発言も圧迫面接のありがちなパターンです。

    上記とあわせて行われることも多く、求職者が答えられなくなったタイミングで、「あまり考えていらっしゃらないことがわかりました」「うちの会社をよくご存じないようですね」などと言われるケースもあるようです。

  3. (3)人間性や実績を否定する

    圧迫面接では、応募者の人格や生き方、能力を否定するような言葉がときおり聞かれます。

    たとえば「性格が暗くて嫌な気持ちになる」「君は無能だね」などです。求職者の実績をひと通り聞いたあとに、「たいした成績ではない」と切り捨てるような発言をする採用担当者も中にはいます。

  4. (4)あからさまに嫌な態度を取る

    採用担当者によっては、発言だけでなく、態度でも求職者にストレスを与えてきます。たとえば、受験者の発言中にため息をつく、携帯電話を触る、質問しておきながら無反応といったケースがあります。ほかにも、大声を出す、足を組む、頬杖をつく、突然離席するといった対応をする採用担当者もいるようです。

2、圧迫面接は刑事罰には問われないの?

前章でご紹介してきたように、求職者に対して否定的、威圧的な対応が往々にして行われるのが圧迫面接です。それによって、心が傷ついたり怒りを覚えたりする就活生や、うつ病を発症して就職活動を断念せざるを得なかった学生の方が少なからずいて、問題視されています。

では、圧迫面接は刑事罰に問われないのかと言うと、現在のところ圧迫面接を直接取り締まる法律はありませんしかし、名誉毀損罪や侮辱罪などが成立する可能性があります

  1. (1)名誉毀損罪

    名誉毀損罪とは、刑法第230条によれば、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損する行為を言います。簡単な表現に直すと、複数の人の耳に入るような形で事実を示すことによって、その人の社会的な評価を下げたときに問われる罪です。

    たとえば、複数の面接官がいる中で、「あなたは、前の会社で役に立たなかった」などと社会的評価を低下させるような発言をされたら、名誉毀損罪を問える可能性があります。このとき、「前の会社で役に立たなかった」ことが真実かどうかは関係がないため、仮に「前の会社で役に立たなかったこと」が本当であったとしても罪を問うことは可能です。

    名誉毀損罪が成立した場合、3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金が科されます。

  2. (2)侮辱罪

    侮辱罪とは、刑法第231条によれば、事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱する行為です。事実を示さずとも、不特定多数の人の耳に入るような形で侮辱し、その人の社会的な評価を下げれば、侮辱罪に当てはまります。

    たとえば、面接会場の外にまで聞こえるような大声で、「馬鹿じゃないのか!」「使い物にならない!」と言われたら、侮辱罪を問える可能性はあるでしょう。侮辱罪が成立した場合の刑罰は、拘留または科料です。

3、民事上の損害賠償請求をすることはできる?

圧迫面接を受けたときに、場合によっては刑事罰に問える可能性があります。では、民事上の損害賠償請求はできるのでしょうか。順を追って、ご説明します。

  1. (1)圧迫面接の場面における損害賠償請求とは

    圧迫面接の場面における損害賠償請求とは、相手の言動によって生じた損害に対して、金銭で償ってもらうように求める行為です。

    不法行為とは、故意もしくは過失で、相手の権利や法律上守られるべき利益を侵害することです。交通事故を起こして相手を怪我させる、SNSによる誹謗中傷により相手に精神的苦痛を与える、配偶者による暴力などがあげられます。

  2. (2)圧迫面接の場合は慰謝料請求を検討する

    不法行為によって生じる損害は、財産的損害と精神的損害の2種類にわけられます。このうち、精神的損害に対して支払われるのが慰謝料です。

    圧迫面接で法的問題が生じる場面の対応としては、圧迫面接により精神的苦痛を被ったことを理由に、会社に対しては慰謝料を請求することが考えられます。

    たとえば、採用担当者による「君のような馬鹿な人材はいらない」という侮辱によって、精神的苦痛を味わったので慰謝料を請求する、といった具合です。あるいは採用担当者がセクハラにあたる発言をしたり、男女雇用機会均等法(※)に違反したりしたことで、精神的に傷ついたので慰謝料を請求する、というパターンも考えられます

    (※)募集や採用、昇給、退職、解雇といった雇用のあらゆる面で、男女間に差をつけることを禁止した法律です

4、費用倒れの可能性も…慎重な見極めが大切

ここまで見てきたように、圧迫面接に対して刑事罰を問うたり、損害賠償を請求したりできる可能性はゼロではありません。

刑事訴訟や民事訴訟をする場合は、専門的な知識や準備が必要になるため、弁護士の力を借りるのが無難です。

ただし、弁護士費用や裁判費用が損害賠償請求をして受け取れる金額を上回る、いわゆる費用倒れになってしまうことはしばしばあります。そのため、圧迫面接について法的手続きを行うことを検討する場合は、慎重に見極めることが大切です。

  1. (1)圧迫面接に対する訴訟が費用倒れになりやすい理由

    まず、なぜ費用倒れが起きかねないのか、その理由を整理していきましょう。

    ● 有用な証拠が十分に揃えられないため、慰謝料が十分にもらえない
    圧迫面接に対して訴訟を起こすときは、刑事罰に抵触する行為や精神的苦痛につながるような行為があったことを証明する証拠が必要です。具体的に有用なものとしては、面接官の録音データがあげられるでしょう。

    ただ、企業によって、求職者のストレス耐性を確かめるために圧迫面接をあえてやっているケースがあります。実態はそうでなくても、「優秀な人材を集めるために必要なことだった」「採用活動の一環だった」と弁解する企業もいます。

    このような企業側の言い分を、録音データだけで覆すのは簡単ではありません。そのため、会社側の非が認められたとしても、思ったほど慰謝料が支払われない可能性があります。

    ● 訴訟が長引き、弁護士費用が大きくなるケースがしばしばある
    会社の言い分を覆すのが難しいとなると、会社と長く争う必要が少なからず出てきます。裁判の期間が長引けば、それに伴って弁護士費用もかさみ、慰謝料を上回る蓋然性も高くなるでしょう。

    また、訴訟を起こせば、メディアに取り上げられて、圧迫面接が行われていたという話が世間に広まる可能性が出てきます。「あそこはブラック企業だ」「就職活動の候補から外したほうがいい」と思う方も出てくるでしょう。あるいは、取引先との信用問題にも影響が及ぶ可能性も考えられます。

    企業側からしてみれば、それは事実を公然と摘示され、社会的な地位を下げられたことと同じなので、逆に名誉毀損で訴えてくるおそれもあります。そうなると、より粘り強く交渉する必要が生じ、弁護士費用がますます大きくなることもあり得ます。

    ただ、メディアで取り上げられる前にトラブルを終息させるため、会社側が和解に応じることも考えられます。

  2. (2)どんなときに弁護士に依頼したほうがいいのか

    圧迫面接をした会社を相手に訴訟することは、上記の理由から慎重に考えなければいけません。

    一方で、弁護士に速やかに相談した方が良いパターンもあります。

    たとえば、

    • ① 圧迫面接をされた際に録音を取っていた、面接の内容を日記に残していたなど、圧迫面接の様子が詳細にわかる証拠が残っている場合
    • ② 圧迫面接によりうつ病になったことがわかる医師の診断書がある場合
    • ③ 他の面接者の供述など、第三者が圧迫面接のあったことを証明してくれるような場合

    などです。

    このような場合は、訴訟になった場合にも、証拠として提出できるものがあるので、弁護士に相談する価値があります。

    証拠が全く残っていないと思われる場合でも、弁護士から会社に事実を記載した書面を提出してもらえれば、会社側が事実を認めて慰謝料相当額を支払う場合もあります。そのため、証拠が全く残っていない場合でも、一度弁護士に相談した方が良いと思います。

5、まとめ

圧迫面接は、刑事罰に問うたり慰謝料を求めたりはできるものの、実際には有力な証拠がそろわず、難しい面があります。場合によっては、次に圧迫面接にあったときにはどうしたらいいのか対策を練るほうが、ご自身で納得のできる就職活動となるでしょう。

しかし、圧迫面接が法的に慰謝料を請求できるレベルのものかをご自身で判断するのは難しい場合も多いです。そのような場合は、一度弁護士にご相談いただければと思います。

なお、本記事をご紹介したベリーベスト法律事務所 大阪オフィスでは、会社と労働者のトラブルを多く取り扱っている弁護士が所属しています。どうしても面接官の対応が納得できないときや本文内でご紹介した内定取り消しのケースなどは、ご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています