おとり広告とはどういうもの? 法律で規制されていないの?

2021年09月02日
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おとり広告とはどういうもの? 法律で規制されていないの?

広告などに気になる商品が載っていたためお店を訪ねたところ、すでに完売しており、別の商品を勧められたという経験のある方もいるかもしれません。広告に掲載された商品が実在し、実際に完売してしまったのであれば問題ありませんが、そもそも存在しない商品を広告に掲載していた場合には、おとり広告として問題になることがあります。

最近では、スマートフォンの新料金プランを顧客誘引の道具として利用して、利益率の高い既存の料金プランに加入させるということも行われていたようです。

今回は、おとり広告とはどういうものか、おとり広告を規制する法律はあるのかなどについてベリーベスト法律事務所 大阪オフィスの弁護士が解説します。

1、おとり広告とは

おとり広告とは、実際には購入することができない商品およびサービスであるにもかかわらず、一般消費者が購入することができると誤認するおそれがある表示のことをいいます

おとり広告は、広告に掲載した商品やサービスに関心を持つ消費者を誘引し、広告には表示されていない商品やサービスを購入させるための手段として利用されるケースがあります。

不動産業者などがインターネット上に架空の物件やすでに成約済みの物件情報を掲載して、問い合わせのあった顧客に対して別の物件を勧めるというものが、おとり広告の代表的な方法です。

そのため、おとり広告は、不当に顧客を誘引し、公正な競争を阻害するおそれがあることから、景品表示法などによって規制されています

2、おとり広告への規制

おとり広告に対してはどのような規制がなされているのでしょうか。以下では、おとり広告に関する法規制について説明します。

  1. (1)不動産に関するおとり広告規制

    不動産広告については、宅地建物取引業法(宅建業法)上の規制と「不動産のおとり広告に関する表示」という告示によって規制されています。

    ① 宅建業法上の広告規制
    宅建業法上の広告規制としては、宅建業法32条の誇大広告の禁止があります。誇大広告とは、以下のような内容の表示のことをいいます。

    • 著しく事実に相違する表示
    • 実際のものよりも著しく優良でありもしくは有利であると人を誤認させるような表示


    不動産業者が架空の賃貸物件や成約済みの物件をインターネット広告などに掲載することは、「著しく事実に相違する表示」に該当しますので、誇大広告として宅建業法上禁止されています

    宅建業法上の誇大広告の禁止に違反した場合には、指示処分(宅建業法65条1項、3項)、業務停止処分(宅建業法65条2項2号、4項2号)があり、情状が特に重いときまたは業務停止処分に違反したときは免許取り消し(宅建業法66条1項9号)という行政処分を受けることになります。

    さらに、誇大広告の禁止に違反した場合には、6か月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金という刑罰を受ける可能性もあります(宅建業法81条1号)。

    ② 告示による広告規制
    景品表示法5条3号に基づく告示である「不動産のおとり広告に関する表示」では、自己の供給する不動産の取り引きに顧客を誘引する手段として行う以下のような表示を不当表示と規定しています。

    ● 取り引きの申し出に係る不動産が存在しないため、実際には取り引きすることができない不動産についての表示
    たとえば、広告などに表示した物件が表示された所在地に存在しない場合や、広告などに表示した物件が実際に販売しようとする物件とその内容、形態、取り引き条件などについて同一と認めがたい場合です。

    ● 取り引きの申し出に係る不動産は存在するが、実際には取り引きの対象となり得ない不動産についての表示
    たとえば、表示した物件がすでに売却済みのものまたは処分を委託されていない他人のものである場合や、表示した物件に重大な瑕疵があるため、そのままでは取り引きすることができないものであることが明らかな場合です。

    ● 取り引きの申し出に係る不動産は存在するが、実際には取り引きする意思がない不動産についての表示
    たとえば、顧客に対し、広告などに表示した物件に案内することを合理的な理由がないのに拒否する場合や、表示した物件に関する難点を殊更に指摘するなどして、その物件の取り引きに応ぜず、顧客に他の物件を勧める場合です。

    上記のような告示に違反した場合には、景品表示法による措置命令の対象となります(景品表示法7条1項)。不動産業者が当該命令に違反した場合には、2年以下の懲役または300万円以下の罰金を科されることがあります(景品表示法36条)。

  2. (2)その他のおとり広告規制

    不動産に関する広告は、上記のような宅建業法や告示によって規制されていますが、それ以外の一般的なおとり広告については、景品表示法5条3号に基づく告示である「おとり広告に関する表示」という告示によって規制されています。

    当該告示では、以下のような広告表示を不当表示として規定しています。

    1. ① 商品または役務について、取り引きを行うための準備がなされていない場合や、実際には取り引きに応じることができない場合の商品または役務についての表示
    2. ② 商品または役務の供給量が、著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合の商品または役務についての表示
    3. ③ 商品または役務の供給期間、供給の相手方またはひとり当たりの供給量が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明瞭に記載されていない場合の商品または役務についての表示
    4. ④ 商品または役務について、合理的理由がないのに取り引きの成立を妨げる行為がなされた場合や、実際には取り引きする意思がない場合の商品または役務についての表示


    告示に違反したおとり広告を表示した場合には、消費者庁から措置命令を出されることになります。また、消費者庁からの措置命令に従わない場合には、2年以下の懲役または300万円以下の罰金を科されることがあります(景品表示法36条)。

3、契約解除はできる?

おとり広告によって、広告商品ではなく別の商品を契約することになった場合には、当該契約を解除することはできるのでしょうか。

  1. (1)景品表示法では解除の規定はない

    おとり広告を規制する景品表示法や告示では、おとり広告を掲載した業者に対しての制裁を規定するのみであり、おとり広告によって業者と契約をした消費者との契約上の効果については、特に規定していません。

    したがって、契約を解除することができるかどうかは、民法や消費者契約法などの法律に従って判断することになります。

  2. (2)消費者契約法に基づく契約取り消しの可能性

    消費者契約法4条では、事業者が消費者契約の締結について「勧誘」する際に、不実告知などがあった場合には、当該契約を取り消すことができると規定しています。

    広告表示などによって不特定多数者に向けて表示行為がなされた場合に消費者契約法4条の「勧誘」に含まれるかが争点になった裁判で、最高裁判所はおとり広告も消費者契約法4条の「勧誘」に該当する場合があることを認めました(最高裁平成29年1月24日判決)。

    事業者等による働きかけが不特定多数の消費者に向けられたものであったとしても、そのことから直ちにその働きかけが…「勧誘」に当たらないということはできないというべきである。


    したがって、おとり広告が消費者契約法の不実告知(消費者契約法4条1項1号)、断定的判断の提供(消費者契約法4条1項2号)、不利益事実の不告知(消費者契約法4条2項)などに該当する場合には、事業者との間の契約を取り消すことができる可能性があります

4、トラブルは弁護士へ相談

おとり広告だけでなく、事業者との間でトラブルになった場合には、自分ひとりで判断するのではなく専門的知識を有する弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)おとり広告で不利益を被った場合には損害賠償請求も可能

    従来は、おとり広告を理由に事業者との間の契約を取り消すことは難しい側面がありました。しかし、上記の最高裁判決によって、おとり広告に対しても消費者契約法4条が適用される余地が認められましたので、広告の内容によっては、消費者契約法4条を理由に契約を取り消すことができます

    また、おとり広告によって消費者が不利益を被った場合には、事業者に対して不法行為に基づく損害賠償請求を行うことも可能です(民法709条)。

    おとり広告によって、不利な契約の締結を余儀なくされたという場合には、適切な法的手段を選択することによって被害の回復を図ることができる場合があります。どのような対処が可能かについては、専門家である弁護士に相談をしてみるとよいでしょう。

  2. (2)消費者被害については弁護士に相談を

    おとり広告に限らず、一般的に消費者は、事業者に比べて情報や交渉力において格差があるといわれています。そのため、気付かぬうちに不利な契約を締結されている可能性があります。このように事業者に比べて不利な立場にある消費者に対しては、消費者契約法などによって保護が図られています。

    クーリングオフなどを利用する場合には、法律上の期限内に権利を行使する必要がありますので、少しでも契約に疑問を持った場合には、すぐに弁護士に相談をするようにしましょう

5、まとめ

不動産業界では、おとり広告によってすでに成約済みの物件を顧客誘引目的でそのまま掲載していることがあります。おとり広告かどうかは一見して判断することができませんので、情報力に格差がある消費者が、そのまま不利な契約を締結させられてしまうかもしれません。

おとり広告をはじめとした消費者被害については、早期に弁護士に相談をすることが有効な手段です。消費者被害にあったかもしれないとお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています