ディープフェイクポルノとは|逮捕されるとどのような罪に問われる?
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人工知能(AI)の技術発展に伴い「ディープフェイク」という技術が生まれました。近年、このようなディープフェイクの技術を利用して、アダルトビデオなどのわいせつ動画と女性タレントを合成して、あたかもその女性タレントがアダルトビデオに出演しているかのような動画を制作する行為が問題視されています。
実際、令和2年には、アダルトビデオに出演した女性の顔を芸能人とすり替え、その動画をインターネットにアップロードしたなどとして、名誉毀損(きそん)と著作権法違反の容疑で男性2名が逮捕されました。全国初の立件とされています。その後ディープフェイクポルノをめぐって、大阪府の男性が京都簡易裁判所より罰金50万円の略式命令を受けたという報道もありました。
このような行為については、どのような罪に問われることになるのでしょうか。また、「リポスト(リツイート)」や「いいね」のように、問題の投稿を拡散する行為についても、名誉毀損(きそん)罪等の犯罪に問われるのでしょうか。今回は、ディープフェイクポルノの制作やサイト運営、さらにはその拡散行為によって問われる罪について、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスの弁護士が解説します。
1、ディープフェイクポルノとは
近年、ディープフェイクポルノが問題視されてきていますが、そもそもディープフェイクポルノとはどのようなものを指すのでしょうか。
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(1)ディープフェイクとは
ディープフェイクとは、ディープラーニングとフェイクを組み合わせた造語であり、もともとは、機械学習アルゴリズムのディープラーニング技術を利用して、2つの写真や動画の一部を交換・合成させる技術のことを指していました。
ディープフェイクは、実際にその人が行っていない動作をしたり、実際に発言していないことを発言しているように描いたりすることができます。 -
(2)ディープフェイクの技術を悪用する危険性
本来ディープフェイク技術は、映画などに活用するための映像技術として開発されたものでした。しかし、現在は、本来の目的以外の場面で利用されることが多くなり、「ディープフェイク」とは、フェイク動画や偽動画を指す言葉として認知されるようになってきています。
近年、ディープフェイク技術を誰でも利用できるソフトやアプリが多数開発されており、それをポルノ動画に悪用する人々が増えています。
ディープフェイク技術をポルノ動画に利用することによって、女優やアイドルなどの有名人の顔をアダルトビデオの出演者の顔と入れ替えることができ、あたかも女優やアイドルがアダルトビデオに出演しているかのような動画を作成することができてしまうのです。これが「ディープフェイクポルノ」と呼ばれているものです。
かなり精巧なディープフェイクポルノも作成されているため、一見しただけではそれが本物なのか偽物なのかを判断することができません。たとえ偽物であったとしても、アダルト動画に利用された女性が被る精神的苦痛は甚大なものであり、女性の人権を著しく侵害するものとして、問題視されています。
2、ディープフェイクポルノのサイト運営で逮捕者も
令和2年10月2日、ディープフェイク技術を利用してアダルト動画を作成したとして、警視庁と千葉県警は、ディープフェイクポルノの制作者らを名誉毀損(きそん)容疑と著作権法違反の疑いで逮捕しました。
また、令和2年11月19日には、ディープフェイク技術を利用して作成したアダルト動画のURLを自身が運営するサイトに掲載したとして、警視庁は、「まとめサイト」の運営者らを名誉毀損(きそん)の疑いで逮捕しています。
この事件では、逮捕された容疑者自身は、ディープフェイクポルノ自体を作成したわけではなく、そのURLを掲載しただけでしたが、それでも逮捕されています。サイト運営者が逮捕されるというのは全国で初めてでしたが、今後も被害が継続するようであれば、同様に逮捕者が増えていくことでしょう。
ディープフェイクポルノは、有名な女性芸能人を対象とした動画であればページビューによる広告収入が期待できるため、広く利用される危険があります。インターネット上に掲載された情報は瞬時に世界中に拡散するため、偽の動画であってもそれによる被害を回復することは非常に困難なものとなるでしょう。
上記のようなまとめサイトの運営者は、直接フェイクポルノを制作しているわけではないですが、情報の拡散に大きく寄与していることから、その違法性は大きいといわざるを得ません。
このようなディープフェイクポルノによる女性の人権侵害を防止するためにも、厳罰化や情報開示手続きの迅速化が求められています。
3、SNSの拡散も名誉毀損(きそん)罪が成立する可能性がある
SNSで拡散した者も、名誉毀損(きそん)罪に問われる可能性があります。
近年の裁判例の中には、Twitter(現X)上で、特にコメントを付すことなくリツイート(現リポスト)をした者に対して、名誉毀損を理由とした損害賠償責任を認めたものがあります(東京高等裁判所令和4年11月10日判決)。
この事件では、リツイートをした者は、フォロワーへの情報提供をしたにすぎないと反論しました。しかし、東京高裁は「仮に専ら情報提供の趣旨でリツイートをするのであれば、その旨のコメントを付すことは十分に可能であったにもかかわらず、特にコメントを付していない以上、閲読者において、投稿者が引用元のツイートに賛同したものと解するのが自然である」と判断して権利侵害を認定しています。
したがって、SNS上の名誉毀損的な投稿に対して、好意的なコメントや「いいね」ボタンを押下したもののみならず、コメントなしで拡散した場合であっても、名誉毀損行為となるリスクがあります。
インターネット上のディープフェイクポルノを安易な気持ちで拡散することは、違法となる可能性があるため、厳に慎むべきでしょう。
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4、ディープフェイクポルノでは、どのような罪に問われるのか
それでは、実際にディープフェイクポルノ制作やサイト運営への関与、ディープフェイクポルノを拡散した場合、どのような罪に問われる可能性があるのでしょうか。
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(1)名誉毀損(きそん)罪
名誉毀損(きそん)罪は、不特定又は多数の人に対して、他人の名誉を傷つける内容を公表したときに成立します(刑法230条)。
ディープフェイクポルノの対象となった女性タレントは、世間の人からはあたかもアダルト動画に出演しているかのように見られてしまうため、社会的評価に影響を与えることになります。したがって、ディープフェイクポルノの対象となった女性に対して、名誉毀損(きそん)罪が成立する可能性があります。
名誉毀損(きそん)罪の法定刑は、「3年以下の懲役もしくは禁錮」または「50万円以下の罰金」です。なお、令和7年6月から懲役刑・禁錮刑は拘禁刑となります。
前述したとおり、ディープフェイクポルノを拡散する行為についても、被害者の社会的評価に影響を与える行為であると考えられるため、名誉毀損(きそん)罪に問われる可能性があります。 -
(2)著作権法違反
ディープフェイクポルノは、既存のアダルトビデオなどの作品を改変するものであることから、アダルトビデオ制作会社の著作権を侵害することになり、罪に問われ可能性があります。
・ディープフェイクポルノを作成・公開した場合
著作権法119条1項によって、「10年以下の懲役」もしくは「1000万円以下の罰金」、またはその両方が科される可能性があります。
・他人が制作したディープフェイクポルノを、自身が運営するサイト上にその動画のURLを掲載した場合
著作権法120条の2第3号によって、「3年以下の懲役」もしくは「300万円以下の罰金」、またはその両方が科される可能性があります。
・まとめサイトを運営するなどして、ディープフェイクポルノサイトにアクセスすることを容易にさせた場合
著作権法119条2項4号によって、「5年以下の懲役」もしくは「500万円以下の罰金」、またはその両方が科される可能性があります。
このほか、ディープフェイクポルノを拡散した場合にも、著作権法違反の罪に問われる可能性があります。
旧Twitter(現X)上におけるリツイート行為が著作権者の氏名表示権を侵害するという判決(最高裁令和2年7月21日判決)が出されている例もあるため、動画・画像を拡散する行為についても、著作者の権利を侵害しないための配慮が必要であると考えられています。 -
(3)わいせつ物頒布等罪
ディープフェイクポルノは、もともとがアダルトビデオなどのわいせつ動画であることから、それをインターネット上で公開する行為については、わいせつ物頒布罪に該当する可能性があります(刑法175条1項)。
また、販売する目的でディープフェイクポルノを保持または保管したときには、わいせつ物所持保管罪が成立する可能性があるでしょう(刑法175条2項)。
両罪の法定刑は、「2年以下の懲役」もしくは「250万円以下の罰金もしくは科料」、または懲役および罰金の両方です。
また、わいせつ物が掲載されたURLをネット上に書き込んだ事案において、わいせつ物陳列罪の成立を認めた判例があります(最高裁平成24年7月9日決定)。
他人がすでに公開したわいせつ物をさらに拡散する行為は、行為様態が類似しており、新たな法益侵害の危険性があるという点で、わいせつ物頒布行為等と同様の悪質性があると考えられます。ディープフェイクポルノを拡散する行為についても、わいせつ物頒布等罪に問われる可能性があるといえるでしょう。
5、逮捕後の流れとは?
ディープフェイクポルノに関する行為で逮捕された場合、どのような流れで手続きが進むのでしょうか。以下では、刑事手続きの一般的な流れについて説明します。
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(1)刑事手続きの流れ
① 逮捕・取り調べ
ディープフェイクポルノによって、名誉毀損(きそん)罪や著作権法違反等の疑いで逮捕されたときには、警察署に連行されて、犯行の経緯についての取り調べが行われます。逮捕による身柄拘束は、法律上48時間以内と決まっているため、警察官は、48時間以内に事件と身柄を検察官に送致する手続きをとらなければなりません。
② 勾留
警察官から送致の手続きを受けた検察官は、送致を受けたときから24時間以内に被疑者を勾留するかどうかを決めなければなりません。検察官が勾留をする判断をしたときには、裁判所に対して勾留請求をします。そして、裁判所が勾留を認める決定をした場合には、さらに10日間の身柄拘束が継続することになります。勾留については、延長請求も認められているため、検察官からの延長請求が認められたときには、さらに10日間の合計20日間身柄拘束が続くことになります。
③ 起訴または不起訴
勾留期間が満了する時点までに検察官は、事件を起訴するかどうかを判断しなければなりません。起訴された場合には、刑事裁判において、ディープフェイクポルノに関する罪が裁かれることになります。不起訴となれば身柄は解放され、前科が付くことはありません。
④ 刑事裁判
検察官によって起訴されたときには、通常裁判か略式裁判のどちらかで裁かれることになります。犯罪事実を認めており、罰金刑が予定されているときには、略式裁判になることが多いでしょう。刑事裁判では、事案の内容や犯行の経緯、情状などを踏まえて、裁判官から判決が言い渡されることになります。 -
(2)逮捕されたときには一刻も早く弁護士に相談を
逮捕された場合には、前述のとおり相当長期間身柄拘束が続くことになります。通常の社会生活を送っている方が長期間身柄拘束を受けることになれば、職場、学校、家庭への影響は計りしれません。
身柄拘束を争う手段としては、準抗告や保釈などさまざまな手段がありますが、逮捕・勾留されている本人では、身柄拘束に向けた手続きを行うことが困難なため、弁護士に依頼をして進めていく必要があります。
身柄拘束中に法的観点からサポートすることができるのは弁護士だけなので、逮捕された場合は一刻も早く弁護士に相談しましょう。
6、まとめ
ディープフェイクポルノによる犯罪は、比較的新しいものであり、最近になって検挙されるようになった犯罪です。ディープフェイクの技術は誰でも入手できるため、軽い気持ちからディープフェイクポルノの作成に手を染めてしまう方もいるかもしれません。しかし、ディープフェイクポルノの作成や公開は、それによって対象となった女性の人権を侵害するだけでなく、重大な犯罪行為であるため、絶対にしてはいけません。
さらに、ディープフェイクポルノを拡散する行為についても、名誉毀損(きそん)罪・著作権法違反・わいせつ物頒布等罪に問われる可能性があるため、安易に「リポスト」や「いいね」をするべきではないでしょう。
ディープフェイクポルノの作成や公開、拡散に関わってしまったのであれば、お早めにベリーベスト法律事務所 大阪オフィスまでご相談ください。
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