あなたの行為はわいせつ物頒布等罪にあたる? 弁護士が解説します

2019年09月25日
  • 性・風俗事件
  • わいせつ物頒布等罪
  • 大阪
あなたの行為はわいせつ物頒布等罪にあたる? 弁護士が解説します

2018年6月、無修正のわいせつなDVDをインターネット上で販売していたとして、大阪市内在住の男二人がわいせつ電磁的記録媒体有償頒布目的所持の疑いで逮捕されたという報道がありました。

わいせつ物頒布等罪という犯罪をご存じでしょうか。冒頭の事件のように、無修正のわいせつなDVDを量産して販売する行為と聞けば、自分とは関係がないと思う方も多いことでしょう。しかし、もしかするとあなたや、あなたの知り合いの行為が、わいせつ物頒布等罪に問われる可能性があるかもしれない……というと驚く方もいるでしょう。

なぜ誰でも逮捕される可能性があるのかといえば、「わいせつ物」という定義は非常にあいまいで、個人的に作成した芸術作品の販売もそれに該当する可能性があるためです。たとえばヌード写真を芸術品として販売しても、それがわいせつ物として判断され、逮捕される危険性があるでしょう。

そこで、どのようなものがわいせつ物と判断され、どのような行為がわいせつ物頒布等罪にあたるのかをあらかじめ知っておく必要があるでしょう。また、それと知らずに逮捕されてしまった場合にはどうすればいいかについて、大阪オフィスの弁護士が解説します。

1、わいせつ物頒布等罪とは

  1. (1)罪と量刑

    わいせつ物頒布等罪は刑法第175条に規定されています。

    第175条
    1 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他のものを頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
    2 有償で頒布する目的で、前項のものを所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。


    ここにいう電磁的記録とは、コンピューターなどのデジタルデータが想定されています。具体的には以下のケースが該当すると考えられるでしょう。

    • わいせつなものを頒布・公然と陳列した場合
    • 電気通信の送信によりわいせつなものを頒布した場合
    • 有償で頒布する目的で、わいせつなものを所持した場合
    • 有償で頒布する目的で、わいせつな電磁的記録を保管した場合


    わいせつ物頒布等罪で有罪になれば、法文どおり「2年以下の懲役もしくは250万円以下の罰金もしくは科料に処し、または懲役および罰金を併科する」の範囲で処罰を科されることになります。なお、各処罰の内容は以下のとおりです。

    「懲役」……定められた期間、刑務所で服役する自由刑
    「罰金」……定められた金額(1万円以上)を支払う財産刑
    「科料」……1000円以上1万円未満の軽微な罰金を支払う財産刑

    無償であっても、わいせつ物を多くの他人の目に触れる場所に置いたり、配布したりした場合に罪に問われる可能性があるでしょう。また、日本国内において有償で販売した場合には、より処罰が重くなる傾向があります。

  2. (2)「わいせつ」の定義

    しかし、どのようなものが「わいせつ」に該当するのでしょうか? 実は、わいせつ物の定義には争いがあります。冒頭でも述べたように、ヌードを表現したものを芸術として作成した場合などです。

    判例では、わいせつとは「いたずらに性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的な羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」(最判昭26・5・10)と定義しています。

    また、その判断基準は、一般社会における良識(社会通念)を基準として、その文書等自体から客観的に判断されるとされています(最大判昭32・3・13)。社会通念が基準ですから、わいせつ性の判断は、難しいものとなります。

    この判断基準でわいせつ性が認められたのが、チャタレー事件(最大判昭32・3・13)です。男女の情交を扇情的に描写した小説の場合、たとえ高度な芸術性を有するとしてもわいせつ性を否定することはできないと判断され、有罪が確定しました。
    その後の判例は、憲法21条の表現の自由との関連において、一定限度でわいせつ性の判断を緩和する方向に向かっています。例えば、その物の芸術性、思想性が性的刺激を減少、緩和させ、わいせつ性を解消させることがありうることが認められています(最大判昭44・10・15)。しかし、わいせつ性の判断基準は、なお明確とはいいがたいです。
    したがって、本人が、わいせつなものではないと考えているものであっても、捜査機関がわいせつなものと判断し、捜査の対象となることは、充分考えられます。

2、わいせつ物頒布等罪で逮捕されたら弁護士に相談を

では、わいせつ物頒布等罪で逮捕されてしまったら、どうすれば良いのでしょうか。

警察に逮捕されると、最大48時間拘束されて取り調べを受けます。その後、検察に送致され、ここでは最大24時間の拘束と取り調べがあります。

その後、さらなる取り調べの必要があると判断された場合は裁判所に勾留請求がなされ、これが認められると原則10日間、延長でさらに10日間、合計で20日間勾留されます。

つまり、最大で23日間もの間、身体拘束される場合があるのです。これだけ長期間身体を拘束されると、学校や会社を長期間休まなくてはならず、場合によっては退学や退職処分にもなりかねません。

そのような事態を避けるためには、勾留の要件が満たされないことを裁判所に主張できるよう、早い段階から準備し、逮捕後72時間以内になされる勾留請求に備えておく必要があります。勾留の要件の主なものとしては、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由、罪証隠滅の疑い又は逃亡のおそれ、勾留の必要性が挙げられます。
また、作成したものがわいせつなものではないと考えていたのであれば、無罪の主張をしなくてはいけません。

しかし、警察に逮捕されて検察で取り調べを受けるまでの合計72時間は、弁護士以外の人と面会できる法的根拠がありません。つまり、弁護士を依頼しない限り、たったひとりで厳しい取り調べに対応しなくてならないということです。そこで、早急に弁護士に連絡し、どのような対策を取るべきか相談することをおすすめします。

3、わいせつ物頒布等罪で逮捕された場合の弁護活動

では、実際に弁護士に相談した場合、どのような弁護活動が行われるのか、具体的に紹介します。

  1. (1)反省文などの提出による執行猶予・減刑

    罪を認める場合は、裁判所に反省の姿勢を示せば、刑罰を軽くできる可能性があります。また、捜査機関に反省の姿勢を示し、重大性や悪質性がないと判断されれば、起訴猶予と呼ばれる不起訴処分になり、刑罰を科せられる前提となる刑事裁判自体を免れることも期待できます。

    反省文などを提出する場合は、弁護士のアドバイスを受けて書くといいでしょう。可能な限り、自分の言葉で事件の経緯や現在の反省の気持ち、今後の更生についてのことなど記載します。

  2. (2)贖罪(しょくざい)寄付

    わいせつ物頒布罪は、「社会公共に対する犯罪」になります。つまり、特定の個人の被害者がいない犯罪であると考えられています。

    刑事事件では、事件を起こした加害者が被害者に対して賠償金を支払って当事者同士で和解する示談という方法を取ることがあります。しかし、わいせつ物頒布罪では被害者がいないため、示談はできません。

    そこで、反省意思を示すために行われるのが贖罪寄付です。これは、公的な団体などに対して寄付を行うことで、反省していることを伝える方法です。本罪のように、具体的な被害者がいない場合に行われます。

4、まとめ

わいせつ物頒布等罪と、「わいせつ」とは何かについて説明しました。自らは芸術作品だと自信をもって作成したとしても、多くの方に広く交付した作品が「わいせつ物」とみなされ、逮捕されてしまう可能性はゼロではありません。また、恋人との親密な写真などをネットにアップした場合なども、わいせつ物を頒布したと判断されてしまう危険性もあります。

一度逮捕されてしまうと、早急に手を打たなければ長期勾留となり、社会復帰が困難になる場合もあり得ます。万が一、今の段階で自分が行った行為が本罪にあたるのではないかと不安になった方は、お気軽にベリーベスト法律事務所大阪オフィスへご相談ください。刑事事件の経験豊富な弁護士がアドバイスを行います。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています