インサイダー取引の罰則は? 法人・個人で違いはあるの?
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令和3年1月に大阪市内のテレビ局に勤務する社員がグループ会社の業務提携に関する未公表情報をもとにインサイダー取引をしたとして、証券取引等監視委員会は、金融商品取引法違反の疑いで課徴金納付命令を出すように金融庁に勧告を行ったという報道がありました。
インサイダー取引は、金融商品取引法において禁止されている不正な取引です。インサイダー取引をしてしまった場合には、行政処分が科され、加えて、刑事罰が科せられることがあります。そのため、知らないうちにインサイダー取引をしてしまったということのないように、インサイダー取引についての基本的な知識をつけておくことが重要です。
今回は、インサイダー取引の罰則について、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスの弁護士が解説します。
1、インサイダー取引とは
「インサイダー取引」という言葉自体は聞いたことがあっても、その内容を正確に理解している方は少ないでしょう。以下では、インサイダー取引に関する基本的な事項について説明します。
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(1)インサイダー取引の定義
インサイダー取引とは、上場会社の関係者などがその職務や地位によって知り得た未公表の会社情報を利用して株式を売買することで自己の利益を図ろうとすることをいいます。インサイダー取引は、そのような情報を知らされていない一般の投資家からみて不公平であり、証券市場に対する信頼性が著しく害されるため、金融商品取引法によって規制されています。
このようなインサイダー取引については、証券取引等監視委員会や日本取引所自主規制法人などによって、日々の売買動向などの分析が行われるなどして監視されています。その結果、インサイダー取引に該当するものについては、証券取引等監視委員会から金融庁への勧告、検察庁への告発などが行われることで一定の制裁が加えられることになります。 -
(2)インサイダー取引の成立要件
インサイダー取引が成立するためには、主に以下の要件を満たしたうえで、株券などの売買を行うことで成立します。
① 規制対象者(主体)
インサイダー取引の規制対象者は、「会社関係者」と「第一次情報受領者」です。
「会社関係者」とは、以下の者を指します。役員や正社員だけでなく、パートやアルバイト社員も含まれる点に注意が必要です。- 上場会社の役員(取締役、執行役、相談役、監査役、顧問役など)
- 上場会社の従業員(正社員、契約社員、派遣社員、パート・アルバイト社員など)
- 上場会社との契約締結者・契約締結交渉中の者(取引先、弁護士、税理士、各種コンサルタントなど)
- 上場会社の帳簿閲覧権を有する者(総株主の議決権の3%以上を保有する株主など)
- 上場会社に対して法令に基づく権限を有する者(許認可権を有する官公庁の職員など)
「第一次情報受領者」とは、会社関係者から直接に重要情報の伝達を受けた者や情報受領者から情報を得た者のことをいいます。たとえば、上場会社の役員である友人から聞いて知った人が株式の売買を行った場合や、会社員の夫から聞いた情報に基づいてその妻が株式の売買を行った場合も規制対象の範囲となります。
② 株価に重大な影響を与える重要事実を知っていたこと
「重要事実」に該当するかどうかは、金融商品取引法等の法令で細かく定められております。しかし、一般の方ではそのすべてを理解するのはとても大変です。
そこで、重要事実に該当するかどうかについては、まずは、その情報が投資家の投資判断に影響を及ぼすかどうかという視点で検討するとよいでしょう。もし未公開の情報に触れて株式の売買をしようと思い立った場合には、インサイダー取引を疑ってみた方がよいかもしれません。
③ 公表される前であること(時期)
金融商品取引法では、投資家の公平性を担保するため、法令は、「公表」がされたとは、以下の方法で重要事実が開示された場合であると定めています。- 上場会社の代表者などが、2社以上の報道機関に対し重要事実を公開してから12時間が経過した場合(金融商品取引法施行令30条1項1号、2項)
- 上場会社が金融商品取引所に対して重要事実を通知し、電磁的方法(TDnet)によって開示された場合(金融商品取引法施行令30条1項2号)
- 重要事実が記載された有価証券届出書などが開示された場合(金融商品取引法166条4項)
2、インサイダー取引の罰則は?
インサイダー取引は、不公正な手段で不正な利益を得る取引であることから、インサイダー取引をした個人および法人に対しては、法律で、刑事罰及び課徴金納付命令が規定されています。
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(1)個人に対する制裁
個人に対して課される制裁としては、以下のものがあります。
① 刑事罰
インサイダー取引を行った場合には、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金が科せられ、またはこれらが併科されます(金融商品取引法197条の2)。
さらに、インサイダー取引によって得た財産については、没収されます(金融商品取引法198条の2)。
② 課徴金納付命令
課徴金納付命令とは、インサイダー取引規制に違反した場合に、違反者に対して金銭的負担を課す行政上の処分をいい、違反者は課徴金が科されます(金融商品取引法175条、175条の2)。あくまでも行政処分の一種ですので、刑罰とは異なり前科になることはありません。
しかし、課徴金の金額は、高額になることもありますので、課徴金の負担が命じられた場合には、経済的には相当な負担になります。 -
(2)法人に対する制裁
法人に対して課される制裁としては、以下のものがあります。
① 刑事罰
法人の代表者などが、法人の計算でインサイダー取引を行った場合には、個人だけでなくその法人に対して5億円以下の罰金刑が科せられます(金融商品取引法207条1項2号)。
② 課徴金納付命令
上場会社の役員などが上場会社の計算でインサイダー取引をした場合や上場会社の業務として役員などが情報伝達行為をした場合は、上場会社に対して課徴金が課されます(金融商品取引法175条9項、175条の2第13項)。
3、逮捕されたらどうなるのか
インサイダー取引は、逮捕される可能性もある犯罪行為です。インサイダー取引によって逮捕された場合または逮捕されずに在宅となった場合には、以下のような流れで捜査が進んでいきます。
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(1)身柄事件
① 逮捕・取り調べ
インサイダー取引の場合には、証券取引等監視委員会による調査が行われ、同委員会から検察庁に刑事告訴がなされることによって刑事手続きに発展していくことになります。
インサイダー取引によって逮捕された場合には、警察署でインサイダー取引の経緯や動機などに関する取り調べが行われます。法律上、身柄拘束には時間制限があり、逮捕をしたときから48時間以内に検察官に送致するかどうかを判断しなければならないとされています。また、送致を受けた検察官も、送致から24時間以内かつ逮捕から72時間以内に勾留を請求するかどうかを判断しなければなりません。
② 勾留
裁判所によって勾留が認められてしまった場合には、さらに10日間の身柄拘束が継続することになります。勾留は、さらに10日間の延長が認められていますので、最長で20日間勾留される可能性もあります。インサイダー取引で、容疑を認めない場合には、関係者との口裏合わせを防止するために、接見禁止が付けられることもあります。接見禁止が付けられてしまうと、弁護士以外との面会が禁止されてしまいます。
③ 起訴または不起訴
検察官は、上記の身柄拘束の期限が満了するまでの間に、インサイダー事件を起訴するかどうかを判断しなければなりません。事件として起訴をした場合には、刑事裁判によって、インサイダー事件が裁かれることになります。嫌疑不十分などの理由で不起訴となった場合には、それで事件は終了し、前科も付くことはありません。 -
(2)在宅事件
在宅事件とは、逮捕などの身柄拘束をされずに、日常生活を送りながら捜査が進められる事件のことをいいます。取り調べについては、警察や検察から呼び出しを受けて、その都度警察署などに出頭して行われます。
在宅事件では、学校や仕事に行くなどして普段と変わらない生活を送ることができるというメリットがあります。しかし、身柄事件のように厳格な時間制限がないため、処分が決定するまでに長期化する可能性があるというデメリットもあります。
必要な捜査を終えた後は、身柄事件と同様に検察官が起訴するか不起訴にするかの決定を行います。
4、早期に弁護士へ相談しよう
インサイダー取引の嫌疑をかけられた場合には、刑事事件に発展する前から、すぐに弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)時間の制約なく面会ができる
インサイダー取引で逮捕・勾留された場合には、接見禁止が付けられることがありますので、身柄拘束された本人と面会できるのは弁護士だけです。
インサイダー取引規制違反の事件では、刑事事件や捜査などとは無縁な方がいきなり身柄拘束を受け、過酷な取り調べを受けることになります。突然、日常生活が一変することで混乱するとともに非常に不安になることでしょう。
そのような状況下で、捜査官の取り調べを受けると、捜査官の主張に従ったほうがよいのではという気持ちになり、事実と異なる内容を話してしまうこともあります。一旦そのような内容の調書がとられてしまうと、後日内容を争うことが難しくなりますので、取り調べに対して適切に対応することが重要となります。
弁護士であれば、時間の制約なく本人と面会をすることができますので、綿密な打ち合わせをし、細かい部分までアドバイスをすることによって、本人の不安を取り除くとともに、取り調べに対して適切に対処することが可能になります。 -
(2)早期に相談することによるメリット
インサイダー取引の事案では、通常の刑事事件と異なり、証券取引等監視委員会が、刑事事件に発展する前の段階で、調査を行い関与してくるという特徴があります。
調査という名称で事情聴取が行われますが、実体は「捜査」であり、証券取引等監視委員会による調査段階で、ある程度事件の枠組みを決められてしまいますので、証券取引等監視委員会による調査に対して適切に対応することが重要となってきます。
逮捕されてからだと、すでに証券取引等監視委員会による調査が終了した段階であることもありますので、任意で証券取引等監視委員会による調査を受けた場合には、その調査の段階から、弁護士に相談をするようにしましょう。
5、まとめ
インサイダー取引をしてしまった場合には、課徴金という行政処分が科され、加えて、刑事罰が科されることがあります。たまたま知った情報であってもそれを株式の取引に利用することはインサイダー取引に該当することがありますので、注意が必要です。
インサイダー取引の嫌疑をかけられた場合には、早期に弁護士に相談をすることが有効な手段となります。まずは、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスまでお早めにご相談ください。
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