裁判で嘘をついたら罪になる? 偽証罪になるケースとは
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民事上のトラブルが発生し、当事者同士の話し合いで解決することができない場合には、裁判を起こすことになります。
裁判が進むと証人尋問が行われることがありますが、証人として呼ばれた方が家族や親しい友人に有利になるように嘘の証言をしてしまうケースがあります。民事裁判で嘘の証言をしてしまうと、「偽証罪」に問われる可能性があるため注意が必要です。
今回は、偽証罪の概要と偽証罪になり得るケースなどについて、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスの弁護士が解説します。
1、偽証罪とはどのような犯罪?
偽証罪とはどのような犯罪なのでしょうか。以下では、偽証罪の概要について説明します。
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(1)偽証罪の成立要件
偽証罪が成立するためには、以下の要件を満たす必要があります。
① 証人であること
偽証罪は、「証人」が虚偽の陳述をしたときに成立する犯罪です。そのため、証人という一定の身分が必要な犯罪類型になります。
証人とは、民事裁判や刑事裁判において、自分が体験した事実や認識した事実を供述する人のことをいいます。裁判の原告や被告、被告人は、裁判の当事者にあたるため、証人になることはできません。
② 法律により宣誓したこと
偽証罪が成立するためには、証人が「法律の根拠に基づいて宣誓をした」という事実が前提になります。
宣誓とは、証人尋問を始める前に証言台の前で、真実を述べると宣言することをいいます。具体的には、「良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、また何事も付け加えず、偽りを述べないことを誓います」といった内容を宣言します。
③ 虚偽の陳述をしたこと
「虚偽の陳述」とは、証人が体験した事実に関して、証人の記憶とは異なる事実を陳述することをいいます。
証人には、自分の記憶に従って陳述することが求められているため、証人が記憶している事実が客観的真実に合致していなかったとしても、偽証罪は成立しません。
しかし、証人が記憶している事実に反する陳述をした場合には、たとえその事実が客観的真実に合致していたとしても偽証罪が成立することになります。 -
(2)偽証罪の法定刑
偽証罪の法定刑は、3月以上10年以下の懲役と定められています。
法定刑として罰金刑が存在していないため、有罪となった場合、執行猶予がつかない限りは、刑務所に収監される可能性があります。
2、民事裁判でも偽証罪となり得るケース
刑事裁判だけでなく、民事裁判でも偽証罪の問われる可能性はあります。以下では、民事裁判で偽証罪になり得るケースについて説明します。
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(1)自己の記憶に反する証言
偽証罪が成立するためには、証人が自己の記憶とは異なる事実を陳述する必要があります。民事裁判において、自己の記憶とは異なる陳述をした場合には、偽証罪が成立することになります。
たとえば、交通事故の民事裁判で、信号機の色(過失割合)が争点となっている場合に、客観的真実としては、赤色信号であったとします。しかし、証人が見間違いや誤解などによって、青色信号であったと記憶していた場合には、証人としては、「信号機の色は青色でした」と証言しても偽証罪に問われることはありません。
ドライブレコーダーの映像などから赤色信号であることが明らかであったとしても、自己の記憶とは異なる内容を供述すると偽証罪に問われる可能性があるため注意が必要です。 -
(2)「記憶にない」という証言
民事裁判で証言をする場合に、当事者に不利になる可能性がある事項を質問された場合に、「知りません」、「記憶にありません」などと証言することがあります。
質問された内容について、本当に記憶にないのであれば問題ありませんが、記憶している事実であるにもかかわらず、当事者をかばうためにあえて「記憶にない」などと証言することは、虚偽の陳述に該当するため、偽証罪に問われる可能性があります。
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3、偽証罪にならないケース
以下のようなケースは、偽証罪に問われることはありません。
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(1)刑事裁判の被告人が虚偽の陳述をしたケース
刑事裁判では、被告人質問という被告人の供述を聞く手続きが行われます。その際、被告人が実際に罪を犯したにもかかわらず「やっていません」などと虚偽の供述をすることがあります。
しかし、刑事裁判の当事者が虚偽の陳述をしたとしても、偽証罪は成立しません。偽証罪は、虚偽の陳述をする人が「証人」である場合に成立する犯罪だからです。
ただし、被告人が有利な判決を得るために、証人をおどして虚偽の陳述をさせた場合には、偽証罪の教唆犯が成立する可能性があります。 -
(2)民事裁判の原告・被告が虚偽の陳述をしたケース
民事裁判では、当事者の主張立証がでそろった段階で、争点となっている事実を明らかにするために、原告および被告の当事者尋問という手続きが行われます。
当事者尋問では、それぞれ自己に有利な事実認定をしてもらうために、虚偽の陳述をする可能性もあります。
しかし、刑事裁判の被告人と同様に、民事裁判の原告・被告も「証人」ではなく当事者となるため、虚偽の陳述をしたとしても偽証罪が成立することはありません。
ただし、民事裁判の場合には、宣誓をした当事者が虚偽の陳述をした場合には、10万円以下の過料に処される可能性があるため注意が必要です(民事訴訟法209条1項)。 -
(3)被疑者や参考人が取り調べ中に虚偽の陳述をしたケース
犯罪の嫌疑をかけられた被疑者は、捜査機関によって取り調べが行われます。
取り調べを受けた被疑者としては、刑罰を免れたいという思いから、虚偽の供述をすることがあります。
しかし、取り調べ中の被疑者は証人にはあたらないため、偽証罪が成立することはありません。
また、将来証人になり得る参考人が取り調べで虚偽の供述をすることもありますが、虚偽の供述をした時点では、宣誓をした証人にはあたらないため、偽証罪が成立することはありません。
ただし、参考人が犯人を逃がす目的で虚偽の供述をした場合には、偽証罪ではなく、犯人隠避罪が成立する可能性があります(刑法103条)。 -
(4)宣誓無能力者が虚偽の陳述をしたケース
偽証罪が成立するためには、証人が宣誓をしていることが必要になります。刑事訴訟法155条1項では、宣誓の趣旨を理解することができない人に対しては、宣誓をさせることなく尋問をしなければならないと定められています。
つまり、宣誓をしていない証人については、偽証罪の主体とはならないため、たとえ虚偽の陳述がなされたとしても偽証罪が成立することはありません。
また、民事裁判でも16歳未満の人に対しては、宣誓をさせることができないと定められているため(民事訴訟法201条2項)、民事裁判では、16歳未満の人に対して、偽証罪が成立することはありません。
4、判決確定前に自白した場合はどうなるか
虚偽の陳述をした証人が判決確定前にそのことを自白した場合には、どうなるのでしょうか。
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(1)自白による刑の減免
宣誓をした証人が虚偽の陳述をした場合には、偽証罪が成立することになります。
しかし、偽証罪の要件を満たす場合であっても、虚偽の陳述をした裁判の判決が確定する前に、虚偽の陳述をしたことを自白した場合には、その刑を減軽し、または、免除することができるとされています(刑法170条)。
この場合の自白とは、虚偽の陳述をしたことを告白することで足り、さらに進んで真実を述べることまでは要求されていません。 -
(2)刑の減軽・免除とは
刑の減軽とは、一定の事情が認められる場合に、刑法などの法律で定められている法定刑よりも軽い刑を適用することをいいます。
以下のように刑が減軽されることになります。- 死刑の罪……無期懲役・禁錮または10年以上の懲役・禁錮
- 無期懲役・禁錮の罪……7年以上の懲役・禁錮
- 有期懲役・禁錮の罪……長期及び短期を2分の1にする
- 罰金の罪……多額(上限額)及び寡額(下限額)を2分の1にする
- 拘留の罪……長期を2分の1にする
- 科料の罪……多額を2分の1にする
刑の免除とは、一定の事情が認められる場合に、犯罪の構成要件に該当するものの、刑罰を付さない扱いをすることをいいます。
偽証罪の自白による刑の減免は、任意的な減免とされているため、刑の減免をするかどうかは、裁判官の裁量に委ねられています。
5、まとめ
刑事裁判だけでなく民事裁判でも証人が虚偽の陳述をした場合には、偽証罪に問われる可能性があります。偽証をしてしまったとしても、判決確定前であれば、自白により刑の減免を受けることができる可能性もあるため、早めに弁護士に相談をして、今後の対応について考えていく必要があります。
裁判で虚偽の証言をしてしまった方は、お早めにベリーベスト法律事務所 大阪オフィスまでご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています