実名報道の基準は? 公表されないための対処法や回避できるケース
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令和4年4月からの成人年齢の引き下げに伴い、国会では、少年法を一部改正する法律が成立しました。この少年法改正によって、実名報道の範囲が広がりましたが、そもそも実名報道をする際にはどのような基準で判断されているのでしょうか。何らかの犯罪をしてしまった方としては、自分の実名が報道されるかどうかは重大な問題です。
本コラムでお伝えすることは、大きく以下の3つです。
・実名報道の基準とタイミング
・実名報道されないケース
・実名報道を回避する方法、対処法はあるのか
実名報道されるかどうか不安な方や報道の基準が気になっている方は、ぜひご覧ください。ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスの弁護士が詳しく解説します。
1、実名報道はどのようなときに行われるのか
テレビニュースなどで被疑者の実名報道がなされていることがありますが、実名報道はどのようなときに行われるのでしょうか。
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(1)実名報道とは
実名報道とは、マスメディアがある事件を報道する際に、被疑者や関係者などの実名を報道することをいいます。
事件の被疑者の実名が報道された場合には、報道された被疑者本人は、周囲の方たちから犯罪者であるというレッテルを貼られてしまい、日常生活に多大な影響が出てしまいます。事件の内容によっては、実名報道をされた被疑者本人だけでなくその家族に対しても犯罪者の家族であるという目で見られてしまうため、職場や学校で差別を受けるなどの被害を受ける可能性があります。
もっとも、国民の知る権利は民主主義の根幹をなす重要な権利であり、報道の自由は、国民の知る権利に奉仕する重要な役割を担っています。そのため、マスメディアによる報道の必要性が被疑者のプライバシー保護の必要性を上回る場合には、被疑者の不利益となるような実名報道も行われているのです。 -
(2)実名報道の基準・タイミング
実名報道をするかどうかやどのタイミングで行うのかについて、法律上定められた明確な基準は存在しません。実名報道をするかどうかについて、警察や報道機関では内部基準を設けているといわれていますが、外部に公表された基準ではありませんので、正確な内容は不明です。
もっとも、殺人事件などの重大事件や振り込め詐欺などの社会問題となっている事件など社会的影響力が大きい事件については、実名報道がされやすい傾向にあります。また、被疑者の職業が政治家、公務員、医師、士業など公的側面を有していたり、世間の注目を浴びる職業である場合には実名報道がされやすいといえます。
また、実名報道のタイミングとしては、逮捕された翌日、起訴された直後などが多いですが、特に決まったタイミングはありません。基本的には、マスメディアの判断で実名報道がなされることになりますので、明確なタイミングは不明です。
2、実名報道されないケース
実名報道をするかどうかについては、明確な基準はありませんが、実名報道がされないケースというものも存在します。以下では、実名報道がされないケースについて説明します。
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(1)少年事件
少年法61条は、少年の成長発達の観点から、事件に関わった少年や家族のプライバシーや名誉を保護し、少年の更生を図る目的で、少年本人が推知される報道を禁止しています。
そのため、未成年者の犯罪については、少年法61条の規定により、原則として実名報道がなされることはありません。もっとも、殺人や放火などの重大事件に関して、実名報道を行う必要性が高い場合には、例外的に実名報道がなされることもあります。 -
(2)精神障害者
刑法39条1項は「心神喪失者の行為は、罰しない」と規定しています。心神喪失状態にある精神障害者は、たとえ犯罪を行ったとしても刑事責任能力がないため、罰せられることはありません。そのため、被疑者に精神障害の疑いがあり、刑事責任能力がないと判断される場合には、実名報道は控える傾向にあります。
もっとも、社会的影響力の大きい事件や精神障害の疑いのある被疑者が逃走している事件に関しては、実名報道がなされることもあります。 -
(3)在宅事件
実名報道のタイミングとして“逮捕”された時点が多いことからも、逮捕の有無が実名報道か匿名報道かを分ける一つの基準ともいえます。そのため、身柄拘束を受けることなく捜査がなされている場合には、実名報道ではなく匿名報道になる傾向にあります。
もっとも、この場合も事件の内容や被疑者の職業などを踏まえて実名報道がなされることもありますので、注意が必要です。 -
(4)軽微な事件
マスメディアが報道することができる事件の数にも限りがありますので、毎日起きる事件の中からより社会的影響力の大きいものを選択して事件報道をしています。そのため、軽微な事件については、そもそもマスメディアが取り上げないこともありますし、仮に取り上げたとしても匿名で報道される可能性があります。
3、実名報道を避ける方法はあるのか
実名報道に関しては明確な基準はないため、実名報道を避ける確実な方法というものは存在しません。しかし、以下のような対策を講じることによって実名報道がされる可能性を軽減することはできます。
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(1)逮捕されないようにする
実名報道がされたケースの多くは、逮捕をきっかけとして報道がなされたケースです。テレビニュースなどで逮捕時の映像とともに実名が報道されている場面をよく見ることがありますので、具体的にイメージしやすいでしょう。
逮捕とは、犯罪を行ったと疑われる被疑者の身体を警察署内の留置場に拘束する処分のことをいいます。逮捕には、主に、逮捕令状に基づいて身柄が拘束される通常逮捕と、犯行直後の被疑者を逮捕状なしで逮捕する現行犯逮捕、一定の重大犯罪を犯したと疑うに足りる充分な理由があり、逮捕に関し緊急の必要性がある場合に行われる緊急逮捕の3種類があります。現行犯逮捕や緊急逮捕は、回避することが難しいため、通常逮捕を回避することで実名報道のリスクを軽減することを検討します。
通常逮捕の要件には、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれという要件がありますので、警察からの任意捜査には素直に応じ、また逃走の意思がないということを示すことが重要です。
なお、逮捕されずに在宅で捜査が進められている事件でも実名報道がなされることもありますので、逮捕を回避すれば確実に実名報道を回避することができるというわけではありませんが、実名報道がなされるリスクを軽減することはできます。
また、被害者がいる犯罪であれば、事件になる前に被害者と示談をしてしまうということも有効な手段となります。 -
(2)実名報道を控えることを求める意見書を提出する
もし逮捕されてしまったとしても、検察、警察、記者クラブに対して実名報道を控えるよう求める意見書を提出することによって実名報道を回避することができる可能性もあります。
意見書を提出することによって確実に実名報道を回避できるとはいえませんが、安易な実名報道を抑止し、マスメディアに再考する機会を与えるきっかけにはなるでしょう。
4、刑事事件を起こしてしまったときは弁護士へ早期に相談を
刑事事件を起こしてしまった場合には、すぐに弁護士に相談をするようにしましょう。
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(1)被害者との示談交渉が可能
実名報道を回避するための有効な手段としては、刑事事件になる前に被害者と示談を成立させることです。被害届の提出や刑事告訴がなされる前に示談ができていれば、そもそもマスメディアが事件を知るきっかけはないため、実名報道がなされるリスクはなくなります。
もっとも、そのためには犯罪を行った後、すぐに被害者と接触して示談の交渉を行わなければなりません。犯行直後だと被害者としても加害者と直接会って話をするのは避けたいと考えるのが通常ですので、加害者から直接コンタクトを取ったとしても応じてもらえないことが多いでしょう。
そのような場合には、弁護士に示談交渉を依頼することが有効な手段となります。弁護士であれば、被害者の感情に配慮した形で交渉を進めることができますし、弁護士が窓口となって交渉してくれた方が、被害者としても安心して話をすることができます。
実名報道を回避するためには、早期に示談交渉を開始する必要がありますので、刑事事件を起こしてしまったという場合には、事件化する前であってもすぐに弁護士に相談をするようにしましょう。 -
(2)逮捕後の対応も任せることができる
犯罪を行ってしまった場合には、警察に逮捕される可能性もあります。逮捕され身柄拘束を受けた場合には、その後の勾留も合わせると最大で23日間も身柄拘束が続くことになります。
弁護士に依頼をすることによって、時間や回数を気にすることなく面会を行うことができ、取り調べに対するアドバイスをもらうことができます。また、身柄拘束が長期間に及んだ場合には、日常生活への不利益が非常に大きくなりますので、早期の身柄の解放に向けて活動することもできます。
早めに弁護士に相談をすることによって、早い段階から有効な弁護活動を行うことができます。刑事事件を起こしてしまった場合には、すぐに弁護士に相談をしましょう。
5、まとめ
実名報道をするかどうかに関して、法律上の明確な基準はありません。刑事事件を起こしてしまった方としては、いつ実名報道をされるかなど不安を感じていることでしょう。実名報道を確実に回避することはできませんが、弁護士に相談することによって、実名報道回避に向けたサポートを行うことはできます。
刑事事件を起こしてしまったという方は、早めにベリーベスト法律事務所 大阪オフィスまでご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています