過労死を認定されるための条件は? 必要な手続きと慰謝料請求の方法

2022年06月07日
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過労死を認定されるための条件は? 必要な手続きと慰謝料請求の方法

大阪労働局のデータによると、2021年中に大阪府内で発生した死亡災害(認定された労働災害のうち、被災労働者が死亡したもの)の件数は62件で、前年比16件の増加となりました。

ご家族が過労で亡くなってしまった場合、ご遺族の悲しみははかり知れません。しかし、今後の生活のためにも労災保険の給付金はしっかりと受けとることが大切です。また、過労死の労災認定は、厚生労働省が定める認定基準に基づいて行われるため、申請の際には認定基準を踏まえた証拠資料の準備が必要です。

過労死に関する労災認定基準や、労災保険給付を請求する際に必要となる証拠や手続きなどについて、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスの弁護士が解説します。労災申請だけでなく、事業主である会社に対する慰謝料等の損害賠償請求のためにもお役立てください。

(出典:「令和3年(2021年)死亡災害発生状況」(大阪労働局))

1、過労死が労災認定されるための要件は?

過労死等防止対策推進法第2条では、「過労死等」を以下のとおり定義しています。

【過労死等防止対策推進法第2条】
(定義)
第二条 この法律において「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡もしくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡またはこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患もしくは精神障害をいう。


上記の定義によると、
「業務における過重な負荷による脳血管疾患もしくは心臓疾患を原因とする死亡」
「業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡」

の2つを「過労死」と捉えることができます。

業務上の負荷にはさまざまなパターンがありますが、過労死の原因としては「長時間労働」に焦点が当たるケースが多いです。そのため本記事でも、「長時間労働による負荷を原因とする死亡」を中心に、過労死の労災認定の要件を紹介します。

  1. (1)労災認定は「労働者」が対象

    労災保険は、労働者災害補償保険法に基づき、労働者を使用する事業主が加入する保険です。

    また、労災保険給付は、業務上の事由または通勤により、労働者に負傷・疾病・障害・死亡の結果が生じた場合に給付されます。

    したがって、過労死を理由に労災保険給付を受けるには、事業主に使用される「労働者」でなければなりません。

    事業主と雇用契約を締結し、事業主の指揮命令下で働く方は労働者に該当するため、労災保険給付の対象です。これに対して、会社役員や事業主と業務委託契約を締結している方などは原則として労働者に該当せず、労災保険給付を受給できないので注意しましょう

  2. (2)脳・心臓疾患に関する労災認定の要件

    長時間労働等に起因して、以下の疾病を患った末に死亡した場合、「脳血管疾患・虚血性心疾患等の認定基準」によって労働災害の該当性が審査されます。

    【労災認定の対象疾病】
    • ① 脳血管疾患
      ・ 脳内出血(脳出血)
      ・ くも膜下出血
      ・ 脳梗塞
      ・ 高血圧性脳症
    • ② 虚血性心疾患
      ・ 心筋梗塞
      ・ 狭心症
      ・ 心停止
      ・ 解離性大動脈瘤


    過重労働を起因とする脳・心臓疾患についての労働災害は、以下のいずれかによって明らかな過重負荷を受けた場合に認められます。

    【労災認定の要件(過重負荷)】
    • (a)異常な出来事
      ・ 強度の精神的負荷を引き起こす、突発的または予測困難な異常な事態
      ・ 緊急に強度の身体的負荷を強いられる、突発的または予測困難な異常な事態
      ・ 急激で著しい作業環境の変化
    • (b)短期間の過重業務
      発症前おおむね1週間に、日常業務と比較して特に過重な負荷が発生したこと
    • (c)長期間の過重業務
      発症前おおむねか6月間に、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に従事したこと


    一般に「過労死」と表現されるのは、上記のうち「(c)長期間の過重業務」に当たる長時間労働に起因して脳・心臓疾患を発症し、死亡した場合です。

    「脳血管疾患・虚血性心疾患等の認定基準」では、労働時間と脳・心臓疾患発症の関連性について、以下の目安が提示されています(いわゆる「過労死ライン」)。

    【労働時間と発症の関連性の目安】
    • ① 発症前1~6か月間において、1か月当たりの時間外労働が45時間以下
      →業務と発症との関連性が弱い
    • ② 発症前1~6か月間において、1か月当たりの時間外労働が45時間超
      →時間外労働が長くなればなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まる
    • ③ 発症前1か月間の時間外労働が100時間超
      →業務と発症との関連性が強い
    • ④ 発症前2~6か月間において、1か月当たりの時間外労働が80時間超
      →業務と発症との関連性が強い


    上記の③または④に該当する場合には、脳・心臓疾患が過労死として労災認定される可能性が高いです。

    一方、②の水準にとどまる場合でも、他に業務上の過重負荷に当たる要因が存在するケースでは、脳・心臓疾患が過労死として労災認定される余地があります。

    (参考:「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(厚生労働省))

  3. (3)精神疾患に関する労災認定の要件

    長時間労働等に起因して、うつ病や急性ストレス反応等の精神障害を患い、その結果労働者が自殺してしまった場合には、「心理的負荷による精神障害の認定基準」によって労働災害の該当性が審査されます。

    精神疾患についての労働災害は、以下の要件の両方を満たす場合に認められます。

    【精神疾患の要件】
    • (a)対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
    • (b)業務以外の心理的負荷および個体側要因により、対象疾病を発病したとは認められないこと


    長時間労働に係る「業務による心理的負荷」の程度について、「心理的負荷による精神障害の認定基準」では、以下のとおり評価の目安を定めています。

    【長時間労働の目安】
    • ① 特別な出来事
      ・ 対象疾病の発病前1か月間に、160時間超の時間外労働
      ・ 対象疾病の発病前1か月未満の期間に、1か月当たり160時間超に相当する時間外労働
    • ② 心理的負荷「強」
      ・  対象疾病の発病前2か月間に、1か月当たり120時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった
      ・  対象疾病の発病前3か月間に、1か月当たり100時間以上の時間外労働を行い、その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった
      ・  1か月以上の連続勤務
      ・  2週間(12日)以上の連続勤務+連日深夜に及ぶ時間外労働
    • ③ 心理的負荷「中」
      ・  1か月間に80時間以上の時間外労働
      ・  2週間(12日)以上の連続勤務
    • ④ 心理的負荷「弱」
      ・  1か月間に80時間未満の時間外労働
      ・  休日労働


    上記のうち、「① 特別な出来事」または「② 心理的負荷「強」」に該当する場合には、精神疾患が過労死として労災認定される可能性が高いです。

    また、「③ 心理的負荷「中」」であっても、長時間労働以外に心理的負荷「中」以上の要因が存在する場合には、精神疾患が過労死として労災認定される余地があります。

    精神疾患による自殺の場合、脳・心臓疾患による死亡に比べると、労災が認められる労働時間のハードルがやや高くなっています

    また前述のとおり、精神疾患に関して労災が認定されるためには、業務以外の心理的負荷および個体側要因により、対象疾病を発病したとは認められないことが要件となります。

    たとえば、間近い時期に以下のような事象が発生していると、労災として認められない可能性があるので注意が必要です。

    【労災認定の妨げになる可能性がある要因】
    • 配偶者との離婚、別居
    • 重い病気、ケガ、流産
    • 配偶者、子、親、兄弟の死亡
    • 配偶者、子の重い病気、ケガ
    • 親類が犯罪など社会的に望ましくない行為を行った
    • 多額の財産の損失
    • 天災、火災、犯罪被害
    など

    参考:「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(厚生労働省)

2、過労死について労災認定を受けるために必要な証拠の例

過労死について労災認定を受けるには、長時間労働に従事していたことの証拠資料が必要になります。

長時間労働の事実を示す証拠の例は、以下のとおりです。

【長時間労働の証拠になり得るもの】
  • タイムカードの記録
  • 会社システムへのログイン履歴
  • 業務メールの送信履歴
  • 会社オフィスの入退館記録
  • 交通系ICカードの乗車履歴
  • 業務に関するメモ
など


タイムカードが導入されていない会社でも、労働時間を証明する証拠は他にもたくさんあるので、できるだけ幅広く証拠収集を行いましょう。

3、過労死について労災認定を受けるための手続き

過労死について労災保険給付を請求する場合、会社の所在地を管轄する労働基準監督署長に対して、請求書と証拠資料を提出します。

労災保険給付には主に以下の6種類があり、給付内容によって請求書の様式が異なります。

【労災保険給付の一覧】
  • ① 療養(補償)等給付
  • ② 休業(補償)等給付
  • ③ 障害(補償)等給付
  • ④ 遺族(補償)等給付
  • ⑤ 介護(補償)等給付
  • ⑥ 葬祭料・葬祭給付


各請求書の様式は厚生労働省のサイトからダウンロードできるほか、労働基準監督署の窓口でも交付を受けられます。該当する様式を用いて、漏れのないように請求書を作成・提出しましょう。

(参考:「労災保険給付関係請求書等ダウンロード」(厚生労働省))

4、過労死した場合、会社への損害賠償請求も可能|弁護士にご相談を

労災保険給付の金額は、給付要件に従って機械的に算出されるため、過労死した被災労働者や遺族に生じた損害の全額を補填(ほてん)するのに十分とは限りません。

労災保険給付だけでは十分な補償を受けられない場合、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)を根拠として、会社に損害賠償を請求することもできます

弁護士に一任すれば、会社との示談交渉・労働審判・訴訟の手続きを一括して代行し、適正な損害賠償を獲得できる可能性が高まります。ご家族の過労死に関して、会社に対する損害賠償請求をご検討中の方は、早めに弁護士までご相談ください。

5、まとめ

過労死に関する労災認定は、死因に応じて「脳血管疾患・虚血性心疾患等の認定基準」「心理的負荷による精神障害の認定基準」のいずれかの基準に基づき行われます。

労災認定がなされれば、被災労働者の遺族は労災保険給付を受給できます。しかし、労災保険給付は損害全額を補填するのに不十分なケースも多く、その場合は会社に対する損害賠償請求をご検討ください

ベリーベスト法律事務所では、被災労働者やご家族のために、会社に対する損害賠償請求を一貫してサポートいたします。ご家族が長時間労働により過労死された場合には、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスへご相談ください。まずは状況や症状など丁寧にヒアリングし、事務所スタッフ一丸となってサポートいたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています