労災を使うとボーナスが減る? 欠勤・休業の扱いと労災保険

2024年07月08日
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労災を使うとボーナスが減る? 欠勤・休業の扱いと労災保険

大阪労働局が公表している労働災害発生状況に関する統計資料によると、令和5年の労働災害(労災)による死傷者数は、11176人でした。前年度と比べると11566人減少しており、決して少なくない方が労働災害に遭われていることがわかります。

労災によって怪我を負ったり、病気になったりしてしまった場合には、治療やリハビリのために仕事を休まなければならなくなることがあります。

労災によって休業することになった場合には、労災保険から補償を受け取ることができますが、休業によって会社から支給されるボーナスにどのような影響が及ぶのかが気になるところです。

賃金に対して不安があるために、休業が必要な状態であるにもかかわらず無理して働こうとする方もいるかもしれません。

今回は、労災による休業とボーナスとの関係などについて、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスの弁護士が解説します。

1、労災による休業は欠勤扱い?

結論からお伝えすると、労災で欠勤になる可能性はあり、さらにボーナスが減る可能性もあります。

労災によってしばらく休業を余儀なくされた場合、有給を利用するのか、欠勤になるのかもしくは補償してもらえるのか、気になるところです。休業の際の手当も含めて、どのような扱いになるのか確認していきましょう。

  1. (1)欠勤扱いとなるかは就業規則の定めによる

    労災によって仕事を休まなければならなくなった労働者の方は、欠勤扱いによって賞与の支払いに影響が及ばないか不安になる方も多いと思います。

    賞与は、労働基準法上、賃金の一種とされていますが、賞与の支払いについては法律上義務付けられているものではありません。そして、賞与を支給するかどうかや賞与の支給条件をどのように定めるかについては、使用者が自由に決定することができるとされています。

    そのため、労災によって休業した期間について賞与の算定上「欠勤」扱いとし、一定額を控除したとしても違法行為にはあたりません

    このように労災による休業期間中の賞与の扱いについては、会社によって処理の方法が異なってきますので、まずは勤務先の就業規則などを確認するようにしましょう。

  2. (2)労災保険から休業(補償)給付を受けることができる

    労働基準法26条は、使用者の責めに帰すべき事由によって労働者を休ませた場合には、休業手当として平均賃金の100分の60以上のお金を支払わなければならないとされています。

    そのため、業務災害のように会社側に一定の落ち度があるような労災事故による休業の場合には、理論上は、会社から平均賃金の6割の休業手当が支払われることになります。

  3. (3)労災保険から休業(補償)給付を受けることができる

    労災によって怪我を負ったり、病気になったりしたことが原因で仕事を休まなければならなくなった場合には、労災保険から休業(補償)給付を受けることができます。

    休業期間中の休業(補償)給付としては、「給付基礎日額」の60%相当額の支給と、給付基礎日額の20%が休業特別支援金として支給されるため、収入の合計80%が労災保険から補償されることになります

    なお、給付基礎日額とは、労災が発生した日以前の3か月間の賃金総額をその期間の総日数で割った金額です。

    また、労災保険からの休業(補償)給付には、待機期間というものがあるため、休業(補償)給付は、休業4日目から支払われることになります。したがって、休業1日目から3日目までは、会社から休業手当が支払われ、休業4日目から労災保険から休業(補償)給付が支払われることになります。

2、ボーナスが減っても労災保険の「ボーナス特別支給金」で支払われるケースもある

もし、労災による休業の影響で会社のボーナスが減ってしまったとしても、労災保険から支払われる「ボーナス特別支給金」によって補填(ほてん)される場合があります

  1. (1)ボーナス特別支給金とは

    ボーナス特別支給金とは、労災事故が発生する以前の特別給与(賞与など)を算定基準とする、特別支給金のことをいいます。労災に遭った場合は、労災保険からの補償とは別に、社会復帰促進等事業の一環として特別支給金が労災保険に上乗せして支払われます。

  2. (2)ボーナス特別支給金に反映される賃金

    前述の通り、ボーナス特別支給金は、平均賃金ではなく特別給与が算定基礎となります。

    特別給与とは、3か月を超える期間ごとに支払われる賃金のことをいいますので、年2回支給される賞与などは、特別給与としてボーナス特別支給金に反映される賃金となります。また、6か月ごとに支給される勤勉手当や直前6か月の売り上げによって一律に支給される販売奨励金なども特別給与に含まれます。

    なお、結婚手当、出産手当など臨時に支払われる賃金は、特別支給金には反映されません。

  3. (3)ボーナス特別支給金の対象

    特別支給金には、以下の9種類がありますが、ボーナス特別支給金の対象となるのは、⑤から⑨までの特別支給金です。休業に対しては、賞与を基礎とする特別支給金の支払いはありません

    1. ① 休業特別支給金
    2. ② 障害特別支給金
    3. ③ 遺族特別支給金
    4. ④ 傷病特別支給金
    5. ⑤ 障害特別年金
    6. ⑥ 障害特別一時金
    7. ⑦ 遺族特別年金
    8. ⑧ 遺族特別一時金
    9. ⑨ 傷病特別年金


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3、仕事中の怪我には必ず労災保険の申請を

仕事中に怪我をしてしまった場合には、必ず労災保険の申請を行いましょう。

  1. (1)労災保険の申請方法

    労災保険の申請は、以下のような流れで行います。

    ① 会社に労働災害が発生したことを報告
    労災保険の申請をする際には、申請書に会社の証明を受ける必要があります。また、労災保険の給付を受けるためには、会社から労働基準監督署への届け出が必要となります。そのため、労災が発生した場合には、まずは会社に対して報告をしましょう。

    ② 怪我の治療
    労災によって怪我をした場合には、病院で怪我の治療を行います。労災指定病院で治療を受ける場合には、会社から受け取った証明「療養(補償)給付たる療養の費用請求書」を病院の窓口に提出することによって、治療費の負担なく治療を受けることができます。

    労災指定病院以外でも労災の治療を受けることができますが、治療費はいったん全額を自己負担したうえで、後日、労災保険の申請をし、立替えた治療費を受けとることができます。

    ③ 労働基準監督署に必要書類を提出
    労災保険の申請手続きは、会社が労働者の代理で行うことが多いですが、会社が手続きを行ってくれない場合には、補償の種類に応じた以下の請求書に必要事項を記入し、労働基準監督署に提出します。

    • 休業(補償)給付……休業(補償)補償給付支給請求書
    • 障害(補償)給付……障害(補償)給付支給請求書
    • 遺族(補償)給付……遺族(補償)年金支給請求書、遺族(補償)一時金支給請求書
    • 葬祭給付(葬祭料)……葬祭給付(葬祭料)請求書
    • 傷病(補償)年金……傷病の状態等に関する届
    • 介護(補償)給付……介護(補償)給付支給請求書


    ④ 労働基準監督署の調査
    労災保険から給付を受けるためには、労働基準監督署による調査を受け、労働基準監督署長の労災認定を受ける必要があります。労働基準監督署では、会社への聞き取り調査や医療機関への医療照会などの調査を行います。

    ⑤ 保険金の給付
    提出された書類や調査の結果を踏まえて、労災認定を受けることができれば、それに応じた保険金が支払われます。

  2. (2)障害が残れば障害等級認定を受けることが可能

    労災によって怪我をした場合には、病院で治療を受けることになりますが、怪我の程度によっては、治療を継続したとしてもこれ以上改善する見込みがない状態になることがあります。

    このような状態を「症状固定」といい、症状固定時点において障害が残っている場合は、労働基準監督署の障害等級認定を受けることによって、労災保険から障害の程度に応じた以下の補償を受けることができます。

    障害等級認定は以下の等級があります。

    • 障害(補償)年金(1級~7級)
    • 障害(補償)一時金(8級~14級)
    • 特別支給金(1級~14級)
    • 障害特別年金(1級~7級)
    • 障害特別一時金(8級~14級)


4、会社に明らかな非がある怪我だった場合

「会社に非がある怪我なのに賞与が満額支払われない」などの場合は、会社に対する損害賠償請求を検討してみましょう。

  1. (1)労災保険からの給付だけでは十分ではない

    労働基準監督署による労災認定を受けることで、被災労働者に対しては、労災保険から各種の補償が支払われます。

    しかし、労災保険から支払われる補償は、最低限の生活保障だけであるため、労災保険から補償を受けることができたとしても、被災労働者の受けた損害を回復するのに十分な金額とはならない場合もあります。

    たとえば、労災によって被災労働者は、多大な精神的苦痛を被りますが、労災保険からは慰謝料の支払いは一切ありません。また、障害が残っていしまった場合には、労働が制限されることになるため、従来と同様の給料を得ることが難しくなってしまいますが、将来の収入減少に対する補償も十分とはいえません。

    労災保険からの補償だけでは、損害のすべてを補うことができないのが通常です。

  2. (2)会社に対して損害賠償請求が可能

    労災保険からの補償では不足する部分については、労災の発生に非のある会社に対して損害賠償請求という形で請求することができます。

    会社が不誠実な対応をとり、被災労働者への賠償に関して消極的な態度をとる場合には、労働者本人が請求していくのは非常に困難となります。また、損害賠償請求をするには、被災労働者の側で会社の落ち度を立証しなければなりませんが、法的知識のない一般の方では適切に手続きを進めることが困難です。

    そのため、会社に対して損害賠償請求を行う場合には、弁護士のサポートを受けながら進めることがおすすめです。弁護士は、労災による不当解雇を防ぎながら、労働者の正当な権利である損害賠償請求によって労災による被害の回復を目指します

5、まとめ

労災による休業期間中を欠勤と扱うかについては、会社によって扱いが異なるため、欠勤扱いとしている会社では、ボーナスが減るなどの影響を受ける可能性があります。

労災保険の補償が不足していて困っている、会社が慰謝料の支払いに応じてくれない等で会社に対して損害賠償請求を検討中の方は、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスまでお気軽にご相談ください。労働問題の解決実績がある弁護士が問題解決のために力を尽くします。

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