あおり運転で暴行罪として逮捕!? その根拠と逮捕後の流れを解説

2019年01月25日
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あおり運転で暴行罪として逮捕!? その根拠と逮捕後の流れを解説

平成30年7月、大阪府大阪市に隣接する堺市であおり運転をしていた自動車に追突されたバイクの運転手が死亡する事件が起きてしまいました。この事件では、検察が、自動車の運転手を「殺人罪」として起訴したことで非常に注目を集めました。

「あおり運転」は、社会的に大きな問題としてクローズアップされています。あおり運転は非常に危険な行為であり、道路交通法違反だけでなく、暴行罪をはじめとした刑法犯として逮捕され、処罰を受けることがあります。

どのようなケースが刑法犯として処罰を受ける可能性があるのかを知っておきましょう。あおり運転と暴行罪の関係を、弁護士が解説します。

1、社会問題化している「あおり運転」

以前は、あおり運転は単に「マナーが悪い」と評されているだけでした。あおり運転は人命を奪うこともある危険な行為であるのにもかかわらず、道路交通法違反などの軽微な罰則でしか取り締まりが実施されていなかったのが実情でした。

そのような情勢の中、平成29年にあおり運転を原因とした死亡事故が発生しました。これを契機に、あおり運転の処罰を求める声は高まりをみせ、警察庁も「あらゆる法令を駆使して厳正な捜査を徹底する」と公表しました。

平成30年6月には、全国の高速道路で初となるあおり運転一斉取り締まりが実施され、わずか1週間で約1000件以上ものあおり運転が道路交通法違反として検挙されています。
※令和2年6月より、あおり運転は厳罰化されています。詳しくは以下のコラムをご覧ください。
>あおり運転が厳罰化! 令和2年創設の妨害運転罪について詳しく解説

2、あおり運転と道路交通法違反

いわゆる「あおり運転」を行った場合には、以下のような道路交通法上の義務に違反したものと評価される可能性があります。

●車間距離不保持違反
道路交通法で定められた車間距離を守らず、前方車両に接近し、加速を促し挑発する行為
●安全運転義務違反
側方の車両に接近し、幅寄せをする行為など
●急ブレーキ禁止違反
後方の車両を停止させる、急ブレーキをかけさせるなどの目的で急ブレーキをかける行為
●進路変更禁止違反
進路を妨害するなどの目的で、後方車両が急ブレーキや急ハンドルで避けなければいけなくなるような進路変更をする行為
●追い越し方法違反
前方車両の左側から追い越す行為
●減光等義務違反
夜間に前方車両の運転を妨げる目的でハイビームのままで走行する、パッシングを繰り返す行為
●警音器使用制限違反
危険回避の目的外でクラクションを鳴らす行為

3、あおり運転と暴行罪

警察庁があおり運転に対して「あらゆる法令を駆使して」と達した意味は、これまでのように道路交通法など交通関連の法令のみに頼らず、刑法など別の法令も活用することを指しているものと思われます。
特に今後は、「暴行罪」として検挙されることも増えるのではないかと考えられます。

暴行罪とは、刑法第208条において「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」に成立すると定められています。

「暴行」という言葉からは、殴る・蹴るなどの暴力行為がイメージされやすいかもしれません。しかし、この「暴行」については「不法な有形力の行使」をいうものと広く解する考えが一般的で、脅す目的で「相手の近くに石を投げつける」など、様々な態様の「不法な有形力の行使」について暴行罪が成立しています。

運転中、必要がないにもかかわらず、車間距離を詰めたり、幅寄せを行ったりする行為は、まさに「不法な有形力の行使」として暴行罪が成立する可能性が高いでしょう。

実は、あおり運転に暴行罪を成立させるという考え方は、かなり昔から存在しています。
東京高等裁判所 昭和50年4月15日判決も、いやがらせで行われた、いわゆる「幅寄せ」行為を「暴行」と評価し、死亡した被害者に対する傷害致死罪が成立すると判断しています。

4、あおり運転を立証する証拠

あおり運転を立証する証拠として非常に有力なのが、最近では広く普及している「ドライブレコーダー」です。事故の状況を記録する目的で普及したドライブレコーダーですが、あおり運転を受けた状況を映像で記録したり、あおり運転の相手車両を特定したりといった捜査に活用されることで、あおり運転の有力な証拠となっています。

以前は前方のみのカメラが主流でしたが、安全装備が充実してきた現在では後方にもカメラが搭載されていることが多く、あおり運転の決定的な証拠が残されることがあります。

5、あおり運転について暴行罪の容疑で逮捕された場合の流れと刑罰

あおり運転行為を警察官が現場で認識する、もしくは、あおり運転の結果として事故がおきたりすると、事故現場で現行犯逮捕される可能性が高いでしょう。また、たとえ事故が起きなくても、危ない目にあった被害者の被害届提出や、目撃者の通報によって、後日逮捕されるケースもあるでしょう。

  1. (1)逮捕後の流れ

    もしあおり運転によって暴行罪が適用され、逮捕されたときは、次のような流れで手続きが進むことになります。

    ●警察による身柄拘束……逮捕から48時間以内は、逮捕事実に関する捜査のために身柄を拘束され、取調べを受けることになります。
    ●検察庁への送致……警察による逮捕から48時間以内に検察庁への送致が行われ、被疑者の身柄と関係書類が検察官へと引き継がれます。検察は、24時間以内に引き続き身柄を拘束して捜査を行う「勾留(こうりゅう)」の必要性を検討します。
    ●被疑者としての勾留……「勾留」が必要と判断した検察官は、裁判所へ勾留請求を行います。勾留が認められると、原則は10日間、延長によって最長20日間の身柄拘束が続きます。
    ●起訴……検察官が被疑者の刑事責任を問う必要があると判断する場合、検察官は起訴して、刑事裁判へと移行します。
    ●被告人としての勾留……公判請求されると、多くの場合、今度は被告人として身柄を拘束されます。

    もし暴行罪で有罪判決を受けた場合は、「2年以下の懲役」もしくは「30万円以下の罰金」、または「拘留」もしくは「科料」という刑罰が下されます。

    さらに刑罰のほか、道路交通法103条1項8号(いわゆる「危険性帯有者」)に基づき、運転免許の取り消しや、180日以内の免許停止処分を受ける可能性もあるでしょう。

  2. (2)示談の重要性

    「暴行罪」等の容疑で逮捕されれば、多くの場合、72時間は家族や会社などと連絡がとれなくなります。勾留に移行すれば、さらに最大で20日間も身柄を拘束され、出勤等することができず、影響は避けられません。

    自身の人生のためはもちろん、被害者に対して適切な賠償を行うためにも、将来にわたる不利益をできるだけ最小限に抑える必要があります。そこで、刑法犯として裁かれる可能性があるときは、「不起訴」と「早期の身柄解放」を目指すことになります。

    被害者のいる刑事事件では、検察や警察は、被害者の処罰感情を重視する傾向があります。そこで、もしあおり運転をしてしまったときには、早急に弁護士を選任し、相手との示談交渉を進めることをおすすめします。

    示談がスムーズにまとまれば、相手の処罰感情が示談前よりも薄れ、早期釈放や不起訴につなげられる可能性があります。また、起訴されたとしても、弁護士を選任していれば、減刑に向けた弁護活動を行ってくれるでしょう。

6、まとめ

あおり運転は、他人の命を脅かす危険な行為です。軽い気持ちで行ったのだとしても、事故に発展してしまって厳しい処罰が下ることも十分考えられます。 あおり運転が原因で交通事故に発展してしまったケースはもちろん、事故にはならなくとも、逮捕や刑罰に不安を抱えている方は、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスにぜひ一度、ご相談ください。交通事件、および刑事事件の対応実績が豊富な弁護士が、少しでも有利な状況になるよう全力でサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています