恐喝未遂で逮捕|脅迫罪との違い刑事手続きの流れや家族ができること
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令和元年8月、飲食店の売上金をめぐって関係者を脅した容疑で、いわゆる「半グレ集団」の幹部の男が「恐喝未遂」の容疑者として逮捕されました。この事件では、飲食店の売上金を預かっていた男性に対して「金返さんかい、殺すぞ、息のかかった店で働け」などと電話し、現金100万円を脅し取ろうとしたとのことです。
他人を脅して金銭を差し出させる行為は「恐喝罪」にあたりますが、被害者が金銭を差し出さなかった場合も「未遂」として厳しく処罰されます。
ここで挙げた暴力的な事例だけでなく、トラブルの解決を目指した交渉のなかでも思いがけず容疑をかけられて逮捕されるケースもあります。
本コラムでは「恐喝未遂」について、どのような状況で成立するのか、逮捕されるとその後はどうなるのかを解説します。


1、「恐喝未遂」とは?
他人を脅す行為による犯罪であることは容易に想像できるかもしれませんが、似ている犯罪との区別や「未遂」の意味がわからない方もいるでしょう。
まずは「恐喝未遂」がどのような犯罪なのかを確認していきます。
恐喝罪の未遂犯には、障害未遂と中止未遂の2種類があります。
障害未遂とは、被害者が抵抗した・警察に通報されたといった理由で犯行を遂げられなかった場合を指します。障害未遂の場合には、裁判官の判断次第で刑は減軽されます(刑法第43条本文)。
これに対して、中止未遂とは、犯行を自ら思いとどまることです。中止未遂の場合には、必ず刑が減軽・免除されます(同条但書)。
なお、未遂にとどまらず犯罪を遂げれば「既遂(きすい)」です。
2、恐喝罪とは
恐喝罪の成立要件は、「人を恐喝して財物を交付させた」または、「財産上不法の利益を得る」ことです(刑法第249条)。
ここでいう恐喝とは、簡単な言葉に置き換えれば「脅す」と同じ意味になります。つまり、「金を出さないと痛い目をみるぞ」などと脅し、金銭などの払わせる行為をすると恐喝罪が成立します。
また、恐喝の方法には「暴行」も含まれます。例えば、相手の顔を1回平手打ちにし、「今すぐ金を払え。言うことを聞かなければ外国に売り飛ばすぞ」などと脅し、金銭を払わせた場合も、「暴行、脅迫」を手段とした恐喝罪が成立します。
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(1)脅迫罪・強盗罪との違い
混同されがちな犯罪として刑法第222条の「脅迫罪」がありますが、これは「相手方の生命・身体・自由・名誉又は財産に対して害を加える」旨を告知すると成立します。
恐喝罪における暴行・脅迫は、財物の交付に向けられたものであることが必要ですが、脅迫罪における害悪の告知は、財物の交付に向けられている必要はありません。
暴力や脅しといった行為によって相手が「怖い」と感じ「畏怖(いふ)」の状態に陥り、相手が自ら財物を交付したり(249条1項)、利益を移転させたり(同条2項)といった行為があれば「恐喝罪」が成立します。
「利益を移転させる」とは、代金の支払いや借金の返済を免れるといった行為が該当します。
なお、相手が自ら財物を差し出すのではなく、他人に暴力を振るったり、脅したりして無理やりに財産を奪った場合は、刑法第236条の「強盗罪」が成立します。
恐喝罪・脅迫罪・強盗罪の刑罰の違いは以下のとおりです。刑法犯 刑罰 恐喝罪 10年以下の懲役 脅迫罪 2年以下の懲役又は30万円以下の罰金 強盗罪 5年以上の有期懲役 -
(2)恐喝罪は未遂でも処罰される
恐喝罪については、刑法第250条に「この章の罪の未遂は罰する」と明記されているため、たとえ未遂に終わっても処罰を免れられません。ただし、未遂の場合は減刑もありうるため、既遂の場合よりも刑が軽くなる可能性が高いでしょう。
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3、恐喝未遂で逮捕されたら|刑事手続きの流れ
恐喝未遂の容疑で逮捕されると、その後はどうなるのでしょうか?
刑事手続きの流れを確認します。
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(1)72時間以内の身柄拘束を受ける
警察に逮捕されると、逮捕が執行されたその瞬間から身柄拘束が始まります。自由な行動は大幅に制限されるため、自宅へ帰ることも、会社や学校に行くことも、家族に電話をかけることも許されません。
警察における身柄拘束の効力は逮捕から48時間以内です。容疑者を逮捕した警察は、48時間以内に取り調べを終えて、容疑者の身柄を検察官へと引き継がなければなりません。
容疑者の身柄が検察官へと引き継がれる手続きを「送致」といいます。警察からの送致を受けた検察官は、さらに自らも取り調べをおこない、24時間以内に「勾留」を請求するか、釈放しなければなりません。 -
(2)勾留によって最長20日間の身柄拘束を受ける
「さらに容疑者の身柄を拘束する必要がある」と判断した検察官は、裁判官に対して「勾留」を請求します。裁判官がこれを認めると勾留による身柄拘束が始まります。
勾留の効力は最長10日間です。ただし、初回の勾留期限までに必要な捜査を遂げられなかった場合は、一度に限って10日間以内の延長が認められます。
つまり、勾留は最長で20日間です。 -
(3)起訴されると刑事裁判が開かれる
検察官は、勾留が満期を迎える日までに「刑事裁判を起こす必要があるのか」を検討します。
刑事裁判を提起して刑罰を科すのが適当だと判断すれば「起訴」し、刑事裁判を起こす必要はないと判断すれば「不起訴」として即日で釈放となります。
起訴されると刑事裁判が開かれ、最終回となる日に有罪・無罪の別と、有罪の場合は法律で定められた範囲内で量刑が言い渡されます。 -
(4)逮捕されなかった「在宅事件」の流れ
「逮捕」は、容疑者が逃亡や証拠隠滅を図るおそれがあるときに限って認められる強制処分です。逃亡・証拠隠滅の危険がない事件では、容疑者を逮捕せず任意の在宅捜査が進められます。
在宅事件になった場合でも、基本的な流れは変わりません。警察が捜査をおこない、検察官へと送致されます。
ただし、身柄拘束を伴わないため、警察から検察官へと引き継がれるのは警察が作成した捜査書類と証拠資料だけです。この手続きを、ニュースや新聞などでは「書類送検」と呼んでいます。
一般的に、逮捕を伴う「身柄事件」よりも、書類と証拠のみが送致される「在宅事件」のほうが軽い処分で済まされると考えがちですが、実際は違います。逮捕はあくまでも逃亡・証拠隠滅を防ぐための手段であるため、罪の重さとは関係ありません。
身柄事件でも懲役に執行猶予がついて社会生活を送りながら更生を目指すことが許されるケースが少なくありませんが、反面、在宅事件でも実刑判決を受けて刑務所に収監されてしまうケースも存在します。
4、家族が恐喝未遂で逮捕された! 残された家族が取るべき行動
家族が恐喝未遂の容疑をかけられて逮捕されてしまうと、なぜ逮捕されてしまったのか、これからどうなってしまうのかと強い不安を感じるのが当然です。
残された家族としてはどんなサポートができるのでしょうか。
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(1)弁護士に接見を依頼する
逮捕直後から勾留が決定するまでの72時間以内は、たとえ家族であっても逮捕された容疑者との面会が認められません。突然の逮捕で混乱しているなか、本人から事情を尋ねることもできない状況に不安は高まるばかりです。
また、検察官からの請求によって勾留が認められると、さらに最長20日間にわたる身柄拘束が続きます。つまり、身柄拘束の期間を短縮するには「勾留の阻止」、「勾留延長の阻止」を目指すのが最善策です。
逮捕後72時間以内に容疑者本人と面会できるのは弁護士だけです。ただちに弁護士に相談して、本人との接見を依頼しましょう。
弁護士は、接見の機会を通じて今後の流れや展望を本人に教示します。また、警察官や検察官による厳しい追及への対応についてもアドバイスが可能です。
特に、本人が容疑を否認しているケースでは、強引な取り調べによって罪を認める内容の供述調書が作成され、不利な状況を招くことも少なくありません。不当な処分を回避するためにも、弁護士のアドバイスは極めて重要です。 -
(2)被害者との示談交渉を進める
恐喝未遂事件を最も穏便に解決する方法は、被害者との示談成立です。被害者に対して真摯(しんし)に謝罪の意思を伝えて、精神的苦痛を賠償する慰謝料を含めた示談金を支払うことで、被害者の許しを求めます。
被害者との示談が成立し、被害届の取り下げや刑事告訴の取り消しに応じれば、被害者には「犯人を厳しく罰してほしい」という意向がなくなったと評価されるため、検察官が不起訴とする可能性が高まります。
ただし、恐喝未遂事件の被害者は、容疑者本人やその家族に対して強い恐怖や嫌悪感を抱いていることが多く、示談交渉に応じてくれないかもしれません。被害者の警戒心を解きながら円満な示談成立を目指すなら、弁護士を代理人として交渉を進めましょう。
5、まとめ
他人を脅して財物を差し出させる行為は「恐喝罪」にあたり、たとえ財物を差し出させるにいたらなかった場合でも「恐喝未遂」として厳しく処罰されます。恐喝未遂は恐喝罪と同じように処罰されるため、刑事裁判で有罪になれば必ず懲役が言い渡される重罪です。
また、警察に逮捕されれば起訴までに最長23日間にわたる身柄拘束を受けるため、社会生活への悪影響は計り知れません。身柄拘束からの早期釈放や厳しい刑罰の回避を望むなら、弁護士のサポートが必須です。
ご家族が恐喝未遂の容疑で逮捕されてしまった場合は、素早い対応が求められます。ただちにベリーベスト法律事務所 大阪オフィスへご相談ください。刑事事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、早期釈放や刑罰の回避に向けて全力でサポートします。
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