コーヒーをかけたら暴行罪で逮捕!? 暴行罪にあたる行為や量刑とは?
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平成27年10月、大阪府東大阪市の路上で、見知らぬ男にコーヒーを吹きかけられる通り魔的な事件が連続で起こりました。翌11月、任意同行を求められた男が自らの容疑を認め、暴行容疑で逮捕されています。
「暴行」といわれると、いわゆる殴る蹴るなどの暴力を連想する方も多いでしょう。しかし、刑法犯のひとつである「暴行罪」として逮捕される可能性がある行為は、多岐にわたります。冒頭で紹介した事件のように、コーヒーを吹きかけるような行為でも該当するのです。
今回は、暴行罪の行為や量刑について、その他の犯罪との関係性も含めながら、大阪オフィスの弁護士が解説します。
1、「暴行罪」の基礎知識
暴行罪は、刑法第208条で規定されている犯罪です。冒頭で述べたとおり、いわゆる暴力全般はもちろんのこと、コーヒーをかけるなどの行為でも暴行罪が適用されることがあります。
刑法第208条で示されている「暴行」は、法律の専門家の領域において「人に対する物理力の行使」と解釈されています。「人の肉体に対する物理的な攻撃をしたとき、暴行罪に該当する可能性が高くなる」といえるでしょう。
わかりづらいので、暴行罪として罪が問われる可能性がある、具体的な行為を紹介します。
- 殴る、蹴る、たたく、強く押すなどのいわゆる「暴力」
- 相手に水や飲み物などの液体や塩などをかける
- 並走中の自動車に「幅寄せ」する
- 狭い場所で傘やゴルフクラブなどを振り回す
たとえば、あなたの家族が友達に、冗談のつもりで、相手にぶつからないように石を投げたとしましょう。実際にぶつからなかったとしても、ぶつかっていれば相手が負傷する可能性がある行為をぶつかってもかまわないという故意で行っていたということは明白です。よって、暴行罪が問われることがある、というわけです。
2、暴行してケガをさせた場合は傷害罪
刑法では、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」のみが暴行罪に当てはまると規定されています。
つまり、たとえばあなたの家族が誰かに対して暴行とみなされる行為をし、相手がケガをしなければ暴行罪が問われる可能性がある、ということです。相手にケガを負わせてしまった場合は、暴行罪ではなく、傷害罪に問われることになります。
また、傷やあざなどの身体的なケガだけでなく、精神的な機能を害した場合でも傷害罪にあたることもあるでしょう。精神的な機能については、単にストレスを与えた程度では足りず、医学的観点から、身体の生理的機能を毀損させたかどうかが問題になります。
なお、暴行を加えた結果、相手を死亡させてしまった場合は、傷害致死罪や人を殺す故意がある場合には殺人罪となる可能性が生じます。
詳しくは後述しますが、もちろん、暴行罪よりも傷害罪のほうが、そして傷害罪よりも傷害致死罪や殺人罪のほうが、刑罰が重くなります。
3、暴行罪の証拠となるもの
もし家族が、暴行の疑いで逮捕されたと聞けば、「そんなばかな、証拠はあるのだろうか」と思うかもしれません。ここまで解説したとおり、暴行罪のみを問うためには、暴行の事実と相手がケガをしていない事実が必要です。そのような証拠をそろえることは難しいと思われるでしょう。
暴行罪を問う際の証拠は、大きく非供述証拠と供述証拠とに分けられます。
「非供述証拠」とは、防犯カメラの映像や録音、暴行に使われた凶器などです。暴行の容疑であれば、防犯カメラの映像や、スマートフォンなどでとらえられた映像や画像が証拠となるケースが少なくありません。実際に、冒頭で紹介したコーヒーを吹きかけていた事件でも、防犯カメラの映像が非供述証拠として機能しています。
「供述証拠」とは、被害者や目撃者の証言、加害者の自白のことです。ケンカの場合は、通常、予期しない状態で始まるため、非供述証拠がないケースもあります。しかし、それでも、証拠がないと断じることはできません。整合性が高い複数の目撃証言などがあれば、供述証拠のみであっても逮捕される可能性があるでしょう。
ただし、唯一の証拠が加害者の自白のみの場合は、憲法の定めによって有罪にはならないと規定されています。
4、友人同士のケンカも暴行罪になる?
冒頭の事件は通り魔的な犯行でしたが、友人同士のケンカであっても、また、家族内のケンカであっても、通報されれば、その人による暴行があったことが、現場の状況等から明らかであれば、逮捕される可能性は十分にあります。「ケンカ両成敗」とはいうものの、あなたの家族が一方的に手を挙げたのであれば、暴行罪に問われて「被疑者」となるのは、暴行行為をした当人です。
相手が先に手を出してきたとしても、振り払おうとした行為が暴行にあたると判断され、正当防衛でないのであれば、暴行罪になり得ます。もちろん、ケガをさせてしまえば圧倒的不利な立場となり、傷害罪で逮捕される可能性が高まります。正当防衛だったことを証明する必要があるでしょう。また、お互いが手を出している場合は、両方が処罰の対象となります。
もっとも、友人同士の場合、相手が被害届を出さずに穏便に済ませたいと願うことが珍しくありません。警察官が駆けつけても、騒動が鎮静化していれば、口頭注意や事情を聞かれるだけで終わるケースもあります。そのときはもちろん、前科はつきません。
事件の様態や、被害者である友人の処罰感情がどの程度あるのかによって、あなたの家族がどのような処分を受けるのかが左右されるといってよいでしょう。
5、暴行罪の刑罰
暴行罪の刑罰や量刑の判断基準を、関連犯罪と比較しながら解説します。
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(1)暴行罪の量刑はどのくらい?
暴行罪の刑罰は「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」と示されています。つまり、実際の犯行内容や反省度合い、被害者の処罰感情などを考慮し、この範囲内で刑罰を言い渡されることになります。
ただし、悪質性が認められず、早期に示談が成立し、被害者の処罰感情がないことが明白であれば、「微罪処分」や「不起訴」となることもあります。このいずれかであれば、そもそも裁判によって罪を裁かれることもなく、前科がつくこともありません。
もちろん、状況によっては懲役刑になる可能性もあります。懲役刑となり得るのは、たとえば、執拗(しつよう)に暴行を加えた、計画性があった、凶器を使った、暴行の前科・前歴があったなどの場合です。 -
(2)関連犯罪の刑罰と比較
「暴行」行為は、該当の行為がもたらした結果によって、他の刑法犯として罪を問われることになるケースもあります。以下、関連犯罪の刑罰も紹介します。
- 傷害罪…「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。暴行罪と比較して非常に重い刑罰であることがわかります。
- 公務執行妨害罪…通報によって駆けつけた警察官に暴行を加えた、救急隊員に対してつかみかかったなどの行為は、公務執行妨害になります。「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」です。
- 傷害致死罪…殺意はなかったものの、ケンカ中に相手を突き飛ばし、当たりどころが悪くて死亡させてしまった場合などに該当する罪です。「3年以上の有期懲役」にあたり、暴行罪のような罰金刑はありません。有期懲役とは20年以下ですので、「3年以上20年以下の懲役」という意味になります。
- 殺人未遂罪…法定刑は、殺人罪で、「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」ですが、通常、未遂犯として減刑されます。量刑は事件によって異なりますが、懲役3年~7年程度が目安となるでしょう。
なお、殺人罪と傷害致死罪の違いは、ごく簡単にいえば殺意の有無です。「殺すつもり」で犯行に及んだ結果、相手が絶命すれば「殺人罪」が該当します。「殺すつもりまではなかった」のであれば傷害致死罪に問われます。
6、夫や息子が暴行罪で逮捕されたらどうする?
もし家族が暴行罪で逮捕されてしまったら、将来への影響を考えることでしょう。そのうえで、一刻も早く身柄を解放してあげたい、量刑を軽くしてあげたいと思うことは、当然のことです。
将来へ及ぼす影響を最小限に抑えるためには、被害者との「示談」を成立させておくことをおすすめします。前述のとおり、検察が起訴するかどうか、もしくは量刑を決めるとき、犯行そのものの悪質度や常習性などのほかに、被害者の処罰感情を重視します。「処罰感情」とは、「加害者を罰してほしいと思う」気持ちです。
そこで、多くの刑事事件では、加害者と被害者の間で示談を行い、被害者に対して賠償金を支払い、許しを請うとともに、被害者に「処罰感情はない」ことを示す「宥恕(ゆうじょ)文言」が入った示談書を作成することを目指します。宥恕(ゆうじょ)文言が入った示談成立の有無が、不起訴処分の獲得や量刑の軽減につながる可能性を、大きく高めるのです。
ただし、刑事事件では身体を拘束したままで逮捕から起訴・不起訴処分の決定までに、最長でも23日しか猶予がありません。そのうえ、逮捕から勾留されてしまうと、逮捕の期間はもちろん、勾留後も接見禁止処分となれば、その間、家族でも接見ができず、状況がわからなくなります。しかも、被害者と面識がなければ、警察が加害者やその身内に被害者の身元を明かすことはほぼありませんので、交渉そのものが難しいでしょう。つまり、逮捕された本人が直接示談交渉をすることはできませんし、家族の力のみで適切な示談を成立させることは難しいものなのです。
少しでも早いタイミングで示談を成立させるためには、弁護士に相談し、示談交渉を依頼することをおすすめします。弁護士であれば、身内の接見が制限されている期間中でも自由な接見が行えますし、被害者との交渉が可能です。
家族としては、速やかに弁護士に相談し、示談交渉を進めてもらうことが得策だといえます。
7、まとめ
今回は、暴行罪の行為や量刑について、その他の犯罪との関係性を含めて解説しました。
万が一、あなたの家族が暴行容疑で逮捕および任意同行を求められた際は、適切な対応が求められます。早期の身柄釈放や示談交渉に向けて具体的にサポートしてもらうのであれば、法律上の手続きや暴行事件の弁護・示談に精通した弁護士がもっとも適しています。
家族が少しでも早いタイミングで相談することで、逮捕された本人の社会生活に及ぼす悪影響を軽減することができるでしょう。
将来のためにも前科をつけたくない、一刻も早く釈放されたいときは、まずはベリーベスト法律事務所・大阪オフィスへ相談してください。元検事の経歴を持つ弁護士など、刑事事件対応経験が豊富な弁護士が、適切な弁護活動を行います。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています