目の前で家族が警察に対する公務執行妨害罪で逮捕されたら? 弁護士が対策を解説

2019年03月18日
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目の前で家族が警察に対する公務執行妨害罪で逮捕されたら? 弁護士が対策を解説

平成30年2月、大阪市都島区の路上で、警察官から職務質問を受けた男が警察官に刃物を向けて襲いかかったため、公務執行妨害罪で逮捕される事件がありました。刃物を向けられた警察官は、すかさずけん銃で男の足を射撃して抵抗を制止したと報道されています。

公務執行妨害罪といえば、トラブルの当事者や酔っぱらいなど、興奮状態の人が警察官に抵抗することで検挙されるケースが多い犯罪です。冷静なときは「警察官に抵抗する必要はないだろう」と思っていても、いざトラブルの当事者となって興奮していれば、見境なく警察官に抵抗して公務執行妨害容疑で逮捕されてしまうかもしれません。

ここでは、家族や知人が公務執行妨害罪で逮捕されてしまった方に向けて、罰則や逮捕後の流れなどについて、大阪オフィスの弁護士が解説します。

1、公務執行妨害罪の法的根拠と罰則

公務執行妨害罪は、刑法に規定されている「公務の執行を妨害する罪」の中のひとつです。刑法第95条第1項には次のとおり、公務執行妨害罪が規定されています。

「公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。」

この条文が公務執行妨害の法的根拠であり、罰則を規定しています。なお、本条文が守ろうとする対象は、公務員個人ではなく、「公務」そのものです。誤解している方もいるかもしれませんが、警察官をはじめとした公務員を守るための法律などではなく、「国民生活に必要な業務を暴行または脅迫によって妨害する(しようとする)行為」そのものが処罰の対象となっています。よって、公務執行妨害の被害者は、警察などの公務員個人ではなく「国又は地方公共団体」となるわけです。

2、公務執行妨害罪が成立する要件

冒頭の事例では、警察官による職務質問に対して刃物を向けて抵抗したことで、公務執行妨害罪が成立しています。

公務執行妨害罪は「警察官に抵抗すると成立する」というイメージがありますが、条文を見ると、ただ警察官に抵抗することだけを指して刑罰を科しているのではないことがわかります。

一体、どのような場合に公務執行妨害罪が成立するのでしょうか?
公務執行妨害罪が成立する要件を見ていきましょう。

  1. (1)公務員とは

    公務執行妨害罪が成立する場合の対象となる第1の要件は、条文のとおり「公務員が職務を執行する」ときと明文化されています。

    ここで示される公務員とは、刑法第7条1項に規定されている次の職に就いている方です。

    • 国又は地方公共団体の職員
    • 法令により公務に従事する議員、委員、その他の職員

    まず、多くの方がイメージするだろう警察官は、国または都道府県に採用された職員なので、公務員に該当します。その他、国の職員としては自衛官・海上保安官・各省庁の職員などが考えられます。地方公共団体の職員としては、市区町村の役所で勤務する職員・消防官・教職員などが挙げられるでしょう。これらの公務員は、全て一定の職員採用試験を経て公務員の職に就いている人たちです。

    他方、職員採用試験を経ることなく公務員の立場にある人として挙げられるのが、国・都道府県・市町村の議会議員です。各議会議員は、任期中は公務員として執政にあたることになります。

    「その他職員」に該当するのは、国又は地方公共団体の機関として公務に従事するすべての者をいい、公務員の業務を補助する者も含みます。

    • 違法駐車を取り締まる駐車監視員
    • 役所の窓口業務のアルバイト
    • 市町村の嘱託を受けて清掃作業に従事する作業員

    などは、公務に従事するときに限って「みなし公務員」という立場になり、公務員と同じ扱いを受けることになります。

  2. (2)職務とは

    職務とは、広く公務員が取り扱う事務のすべてです。そして、執行するに当たりとは、職務の執行を開始しようとしたときから、それを終えた時点までを指します。前述のとおり、公務執行妨害罪が保護する法益は「公務員の職務」なので、職務を執行するに際してと認められない場合は保護されません。たとえば、休憩中や休暇中の警察官を殴ったとしたら、暴行罪に該当することになりますが、公務執行妨害に問われることはありません。

    なお、職務と認められるためには、適法であることが要件となります。つまり、違法な職務については、公務執行妨害罪が成立しません。

    公務員の違法な職務といっても、あまり具体的なイメージを描くことはできないでしょう。ところが、非常にわかりやすい例を挙げることができるのが、警察官の職務質問です。

    警察官の職務質問は、警察官職務執行法という根拠法令があってこそ可能となる活動です。警察官職務執行法で規定された根拠を無視した職務質問を行っていたことが明らかであれば、公務執行妨害罪を問うことはできません。

  3. (3)暴行・脅迫とは

    暴行・脅迫とは、単純な「殴る・蹴る」などの暴力行為や、「殺すぞ」などと危害を予見させるような脅し文句だけを指すわけではありません。

    「不法な有形力の行使」と言って、たとえば胸ぐらをつかむ、強く押す・引き倒す、帽子のツバをたたいてはね飛ばすなども暴行と認められます。また、身体への接触・非接触は問わないため、目の前に石を投げつけたり、公務員が持っていた書類を奪って捨てたりする行為も暴行になります。

    脅迫とは、単に公務員個人に「殺す」などと暴言を吐くことで事件化されることもあります。法的には、公務中の警察官など公務員に対して、害を加える旨をほめのかして脅す行為が脅迫にみなされることになるでしょう。

3、公務執行妨害罪と他罪との関係

前述のとおり、公務執行妨害罪は、職務中の公務員に「暴行・脅迫」を加えることで成立する犯罪です。すると、「個人に対する暴行や脅迫は同時に成立しないのか?」という疑問が生じます。結論からいえば、もちろん成立することになります。

このように、ひとつの行為が複数の犯罪行為に該当することを「観念的競合」と呼ばれています。観念的競合にある犯罪は「科刑上一罪」と言って、もっとも刑が重いひとつの犯罪についてのみ刑が科せられることになります。

公務執行妨害罪の場合、暴行にとどまれば公務執行妨害罪の方が、重い刑が設定されているため、公務執行妨害罪の刑が科せられることになります。しかし、暴行の結果、公務員が負傷していれば傷害罪が成立してしまうため、刑罰が重い傷害罪に基づいて刑罰を受けることになるのです。

4、公務執行妨害事件で逮捕された場合の対処法

公務執行妨害罪で逮捕された場合、次のような刑事手続きを受けることになります。

  • 逮捕(警察による身柄拘束、48時間以内に送致される)
  • 送致(検察庁への身柄引き継ぎ)
  • 勾留(送致から24時間以内に決定、原則10日、最長で20日間の身柄拘束)
  • 起訴(刑事裁判の提起)
  • 被告人勾留(判決までの間の身柄拘束)
  • 判決(刑罰の決定)

逮捕されて身柄を拘束されれば、勾留が決まるまでの最大72時間は、たとえ家族であっても接見(面会や直接差し入れが行える制度)が制限されます。自由な接見を行える者は、弁護人(弁護士)に限られてしまうのです。

また、勾留が決定してしまうと、裁判となるかどうかが決まるまでの間だけでも最大23日間も、仕事や学校に行くことができなくなります。さらに逮捕事実は報道にて発表されるため、報道機関の判断によっては実名報道も避けられないかもしれません。社会的にも大きな不利益を被ってしまう可能性は否定できません。

家族や友人が公務執行妨害罪で逮捕されてしまったときは、まずは「身柄拘束を解くこと」に重点を絞り、その後、前科がついてしまうことを回避することを目指すことになります。そのためには、身柄を拘束しなくても、任意での取り調べに応じられることを強調し、検察官による勾留請求を防止する必要があるでしょう。

検察官の勾留請求を防止するためには、法律に明るい弁護士が意見書を作成して検察官に提出するなどの活動が有効です。また、早期に弁護人を選任していれば、家族であっても面会ができない逮捕後72時間以内の接見や、逮捕されてしまった家族への法的なアドバイスを受けられます。

たとえ勾留されてしまった場合はできる限り早く身柄拘束が解かれるように、もし起訴されてしまった場合は刑が軽くなるように働きかけることも可能です。

公務執行妨害をしていないというときは、弁護士のサポートを受けて無罪を主張することもできます。家族や友人が逮捕されてしまった場合は弁護士に相談し、サポートを受けましょう。

5、まとめ

冒頭の事例のように「警察官に刃物を向けた」というケースは特殊ですが、公務執行妨害罪はちょっとしたトラブルなどから逮捕されてしまう可能性がある犯罪です。飲み会の帰りや、交通取り締まりの場など、日常的に公務執行妨害事件に発展する危険が潜んでいます。

もし、家族や友人が公務執行妨害罪で逮捕されてしまったら、弁護士に依頼することをおすすめします。素早く弁護人を選任することは、逮捕された家族や友人にとって強力なサポートとなるでしょう。

ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスでは、刑事事件の対応経験が豊富な弁護士が状況に適した対応をアドバイスします。家族や友人が公務執行妨害罪で逮捕され、早く日常に戻してあげたいと考えたときは、まずは相談してください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています