なぜ逮捕されるの?合意のうえなのに、強制わいせつ容疑で逮捕された場合の対処方法
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強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪の容疑で逮捕されてしまうケースで、お互いに、合意のうえだと思っていたというケースがあります。もし合意のうえで行為におよんだにも関わらず、わいせつ容疑で逮捕されたら「合意のうえだった」と主張して、不起訴処分を獲得したいと考えるのは当然です。
ところが、行為が合意のうえで行われたかどうかの判断は状況証拠によるところが多く、慎重に対応しなければいけません。
わいせつ容疑で逮捕されたご本人や身内の方のために不起訴処分を獲得するための対処方法を弁護士が解説いたします。ぜひ参考にしてください。
1、わいせつ容疑で逮捕されるケース
わいせつ容疑で逮捕されるケースには、「現行犯逮捕」と「後日逮捕」の2種類があります。
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(1)現行犯逮捕とは
現行犯逮捕は、現に罪を行い、または行った直後の者を逮捕することをいいます。一般的には、目撃者や被害者などの通報によって現場に駆けつけた警察官が、犯人を現行犯逮捕します。ただし、法律上、現行犯逮捕できるのは警察に限定されていません。まれではありますが、犯行の目撃者や周辺にいた被害者の関係者などによって逮捕されることもあります。
たとえば、悪質な痴漢は強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪にあたり、現行犯逮捕もあり得るでしょう。 -
(2)後日逮捕とは
後日逮捕とは、現行犯逮捕されずに、後になって逮捕されることをいいます(ただし法律上の用語ではありません)。
一般的には、被害者が後日、被害届や告訴状を提出し、警察が裁判所の発付する逮捕状に基づいて被疑者を逮捕します(通常逮捕といいます)。
加害者(被疑者)が現場から逃げた場合で、証拠隠滅や逃亡を図る可能性のある場合は、警察官によって逮捕されることがあります。また、加害者(被疑者)が容疑を否認している場合や複数の共犯者がいる場合にも後日逮捕される可能性は高いです。
とは言え、事件の後に被害者が被害届を提出したからと言って必ず逮捕される訳ではありません。加害者(被疑者)が罪を認めているケースなど、「逃亡や証拠隠滅をしない」と警察官が確信した場合は逮捕を免れることも可能です。
なお、加害者(被疑者)が逮捕されずに捜査をされる場合は、警察から呼び出される度に警察署へ出向いて取り調べを受けます。
2、強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪
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(1)強制わいせつ罪とは
強制わいせつ罪とは、どういった行為をさすのでしょうか?
刑法176条では、13歳以上の男女に対して、暴行や脅迫をしてわいせつな行為をした場合、または13歳未満の男女に対してわいせつな行為をした場合に、6月以上10年以下の懲役に処すると定められています。
たとえば、無理やり抱き着く、衣服や下着の中に手を入れる、自分の陰部を押し当てるなどといった行為は、わいせつな行為と認められます。ただし、衣服の外から身体をさわるといった行為は、強制わいせつにはあたらず、都道府県の迷惑防止条例違反として処理される可能性があります。
また、これまで最高裁は、「性的意図がない」場合は、強制わいせつ罪は成立しないと判断してきました。しかし、2017年11月29日、最高裁は「性的意図は不要とする」判断を示し、47年ぶりに最高裁判例を変更しました。そのため、事件の状況などによっては、性的意図がなくとも、被害者に対して「虐待や報復」などといった意図でわいせつ行為に及んだ場合も、強制わいせつ罪として認められる可能性があります。 -
(2)準強制わいせつ罪とは
準強制わいせつ罪は、強制わいせつ罪とどのように違うのでしょうか?
178条1項では、正常な判断のできない相手に対して、わいせつな行為する罪として定められています。
たとえば、下記のような状態でわいせつ行為をすると、準強制わいせつ罪にあたる可能性があります。- アルコール類や睡眠薬を飲まされて、失神、睡眠、泥酔状態にある
- 極度な畏怖にある状態 など
準強制わいせつ罪も、強制わいせつ罪も同様に、有罪になると6ヶ月以上10年以下の懲役が科せられる重大な罪です。前科の有無や行為の悪質性などによって刑期は変わりますが、罰金刑はありません。
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(3)強制わいせつ罪は非親告罪
2017年7月より、強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪は親告罪から非親告罪へ変わりました。
親告罪とは、被害者からの告訴がなければ起訴できない罪です。そのため、親告罪で被害者と示談をして被害者が告訴を取り下げると、捜査は打ち切られます。
一方、非親告罪は被害者からの告訴がなくても、検察官の判断によって加害者(被疑者)を起訴できます。
ですから、仮に被害者が被害届を取り下げたとしても捜査は打ち切られません。
強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪は非親告罪のため、たとえ被害者との示談が成立しても起訴される可能性があります。不起訴獲得の確率を上げるためには、なるべく早く刑事事件の実績豊富な弁護士への相談・依頼をおすすめいたします。
3、わいせつ容疑で逮捕された後の流れ
わいせつ容疑で逮捕されたら、まずは警察による取り調べが行われます。
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(1)警察による取り調べ
逮捕後は、最長で48時間の警察による取り調べを受けます。取り調べが終わるまでは、弁護士以外とは電話も面会も手紙のやり取りもできません(接見禁止)。
警察は、逮捕から48時間以内に被疑者の身柄を検察へ送致するか釈放するかを決めます。 -
(2)検察への送致・勾留
被疑者の身柄が検察へ送致されると決まれば、逮捕から48時間以内に検察庁へ送られます。
検察官は、その後24時間以内(つまり逮捕から72時間以内)に被疑者の身柄を拘束して捜査を継続する必要があるかを判断します。
「さらなる取り調べが必要」と検察官に判断されると、そのまま最長で20日間も勾留されてしまう可能性もあります。被疑者が勾留されるかどうかには、検察が勾留を請求する前(つまり逮捕から72時間以内)に弁護士が弁護活動を始めるかどうかが重要なポイントとなります。 -
(3)不起訴になれば前科はつかない
最長20日の勾留期間内に、検察官は被疑者の起訴・不起訴を判断します。
下記のようなケースは、不起訴となる可能性があります。- 証拠がない、証拠が不十分
- 被疑者の特別な事情による検察官の配慮 など
もし、不起訴と判断されれば被疑者は釈放され、前科もつきません。ただし、不起訴処分による釈放でも捜査の履歴は前歴として警察に残ります。
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(4)起訴されると刑事裁判が開かれる
検察官により起訴をされたら1~2ヶ月ほど先に刑事裁判が開かれ、有罪か無罪かが決まります。強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪には罰金刑がないため、略式起訴はありません。
【略式起訴とは】
実際に公判を開くことなく、書類審理のみで罰金の決定がくだされる手続きです。
略式起訴の場合は、有罪の決定が出たら罰金を支払い被疑者は釈放されます。 -
(5)執行猶予つきの判決が出れば釈放される
執行猶予つきの判決が出た時点で、被疑者は釈放されます。釈放後は、逮捕される前と同じ生活を送れます。
【執行猶予とは】
有罪判決ではあるものの、一定の猶予期間に再び罪を犯さなければ、実際には刑務所に行かなくてよいとする制度のことです。
また、執行猶予つき判決を言い渡された場合は、執行猶予期間中に別の刑事事件を起こさなければ刑罰の執行はされません。
4、不起訴を獲得するための対処方法
最後に、わいせつ容疑で逮捕された場合に不起訴を獲得するための対処方法をご紹介します。
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(1)一刻も早く弁護士に相談する
逮捕後の勾留回避や、早期釈放、不起訴を獲得するためには、なるべく早く弁護活動を開始することが重要となります。
『逮捕された後の流れ』でお伝えしたように、逮捕をされた後の72時間は弁護士以外の接見は禁止です。検察官が勾留請求をするかしないかの判断は、この72時間内に行われてしまいます。
つまり、この72時間以内に弁護士による弁護活動を始めるかどうかで、被疑者が不起訴を獲得できる可能性に大きな影響を与えるということです。
また、被疑者にとってまったく身に覚えのない容疑をかけられている場合、弁護士であれば取り調べの対処法をお伝えしたり、任意同行に付き添うことが可能です。なかには、取り調べで精神的に追い込まれた結果、虚偽の自白をしてしまうケースもあります。万が一、虚偽の自白をしてしまったあとでも、弁護士がその自白が虚偽であることを主張します。
ご家族や知り合いがわいせつ容疑で逮捕された方は、被疑者を一日も早く釈放するためにも、なるべく早く弁護士に相談することを検討してください。 -
(2)合意のうえだった状況証拠を探す
被害を訴えている相手との行為を「合意のうえだった」と被疑者が認識している場合は、合意のうえで行為におよんだことを示す状況証拠を探しましょう。
わいせつ容疑をかけられている場合は、無罪を示す確固たる証拠は見つかりにくいものです。そこで、行為そのものが合意のうえで行われたものであることを示す証拠を提示することで、わいせつ容疑を否認できる可能性があります。
たとえば、二人の仲むつまじい姿を目撃したホテルの従業員による証言や、行為の後に「昨日は楽しかったね」「大好き」などと被害者から加害者(被疑者)へメッセージが送られていれば、有力な状況証拠になる可能性があります。
ただし、被疑者本人が拘束されている場合、状況証拠は弁護士の協力なく集めることは難しいと考えられます。
また、警察官や検察官を説得するためにはプロである弁護士の助言も必要不可欠です。弁護士が弁護活動を進めれば、被疑者本人が警察官や検察官に対してどのような態度でどのような発言をすれば良いかもアドバイスしてもらえます。 -
(3)示談交渉をする
無罪を証明する状況証拠がひとつもない場合は、示談交渉をすることで不起訴を獲得しやすくなります。
強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪は懲役刑が科せられる重大な罪です。前科がつくだけでなく、刑務所に服役することになる可能性もあります。
一方、示談を成立させている事実は不起訴を獲得するためにも役立ちます。
強制わいせつは親告罪ではなくなりましたが、早期に被害者と示談をして、被害者が「そっとしておいてほしいので、警察の事情聴取にも応じない。裁判所に呼ばれても証言しない。」という態度をはっきりと示せば、検察が被害者の意思を尊重して、あるいは被害者の協力が得られないため有罪を立証する証拠がないという理由から、不起訴にする可能性は十分にあるのです。
不起訴を獲得すれば、また逮捕前の日常生活へ戻れます。なるべく早く釈放されることで、日常生活への支障も少なく済むでしょう。
5、まとめ
検察官による勾留請求の判断は、逮捕されてから72時間以内に決まります。また、接見禁止が解かれるまでの間に被疑者本人と話せるのは弁護士だけです。
わいせつ容疑で逮捕された場合、行為そのものが合意のうえで行われたかどうかは状況証拠によって判断されるケースが多いです。そのため、一刻も早く弁護士に相談し、状況証拠を集めることがポイントとなります。
警察からご家族や知人の逮捕を知らされたら、一刻も早く弁護士に相談することをおすすめいたします。
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