証人等買収罪とは? 適用される行為や刑罰、偽証罪の教唆との違いについて

2022年04月07日
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証人等買収罪とは? 適用される行為や刑罰、偽証罪の教唆との違いについて

IR(統合型リゾート)施設の事業をめぐる汚職事件に関して、証人買収などの罪に問われた当時衆議院議員であった被告人に対して、東京地方裁判所は、証人買収などの罪を認定し、懲役4年の実刑判決を言い渡しました。同被告人は、判決を不服として控訴をしていますので、今後の動向が注目されます。

証人等買収罪とは、平成29年に、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織犯罪処罰法」といいます)に新たに設けられた犯罪です。上記の事件で注目を浴びることになりましたが、比較的新しい犯罪類型ですので、どのような行為に対して適用されるのかを十分に理解していない方も多いと思います。

何らかの罪を犯してしまった方は、少しでも罪を軽くしたいという思いなどから、第三者にうその証言などを依頼する見返りとして金銭を渡そうとしてしまうかもしれません。このような行為についても証人等買収罪の対象になる可能性がありますので注意が必要です。

今回は、証人等買収罪の概要や偽証罪など類似の犯罪との違いについて、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスの弁護士が解説します。

1、証人等買収罪の概要

証人等買収罪とはどのような犯罪なのでしょうか。以下では、証人等買収罪の概要について説明します。

証人等買収罪は、平成29年の組織犯罪処罰法の改正によって、いわゆるテロ等準備罪とともに新たに設けられた犯罪です。

証人等買収罪は、虚偽の証言を行ったかどうかではなく、虚偽の証言などをする見返りとして不当な利益を提供するなどの行為そのものを処罰する犯罪です。

なお、本改正によって証人等買収罪だけでなく暴力団による組織的な殺傷事件や振り込め詐欺などの組織的な詐欺事件についても、実行に着手する前の準備行為段階で検挙・処罰することが可能になったので、組織的犯罪集団から国民の権利や利益を守ることが可能となっています。

もう少し詳しくいいますと、証人等買収罪とは、自己または他人の刑事事件に関して以下の行為をすることの報酬として金銭その他の利益を供与したり、その約束をする行為などを処罰する犯罪です

  • 証言をしないこと
  • 虚偽の証言をすること
  • 証拠を隠滅、偽造、変造すること
  • 偽造・変造の証拠を使用すること


証人等買収の罪を犯した場合には、2年以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。また、証人等買収が適用される罪にあたる行為が組織的に行われたものであった場合や団体に不正権益を得させるなどの目的でなされたものである場合には、5年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。

2、証人等買収罪が適用される罪

証人等買収罪は、どのような罪にかかる刑事事件に対して適用されるのでしょうか。

  1. (1)死刑又は無期若しくは長期4年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪

    組織犯罪処罰法7条の2第1項1号では「死刑又は無期若しくは長期4年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪」にかかる、自己または他人の刑事事件に関して証人等買収を行った場合に、証人等買収罪が適用されるとされています。

    これにあたるものとしては、例えば、以下のような罪が挙げられます。

    • 殺人罪
    • 傷害罪
    • 強盗罪
    • 窃盗罪
    • 監禁罪
    • 詐欺罪
    • 横領罪
    • 恐喝罪


    他方、たとえば、暴行罪や脅迫罪は、上記の要件を満たさず対象外です。

  2. (2)組織犯罪処罰法の別表第一に規定されている罪

    組織犯罪処罰法7条の2第1項2号では、同法別表第一に掲げる罪にかかる自己または他人の刑事事件に関して証人等買収を行った場合に、証人等買収罪が適用されるとされています。別表第一に規定されている罪とは、具体的には、以下のものが挙げられます。

    ただし、分かりやすさの観点から記載を省略している部分がありますので、詳しくは弁護士にご相談ください。

    • テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画の罪(組織犯罪処罰法6条の2第1項又は2項)
    • 証人等買収の罪(同法7条の2)
    • 犯罪収益等隠匿の罪(同法10条)
    • 犯罪収益等収受の罪(同法11条)
    • 薬物犯罪収益等隠匿の罪(国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律6条)
    • 薬物犯罪収益等収受の罪(同法7条)
    • 有印公文書偽造・変造の罪(刑法155条1項、2項)
    • 有印虚偽公文書作成の罪(同法156条)の一部
    • 有印私文書偽造・変造の罪(同法159条1項、2項)
    • 収賄、受託収賄、事前収賄、第三者供賄、加重収賄、事後収賄、あっせん収賄の罪(同法197条~197条の4)
    • 贈賄の罪(同法198条)
    • 未成年者略取・誘拐、営利目的等略取・誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取・誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等の罪(未遂罪を含む。同法224条~228条)
    • 児童の引渡し及び支配の罪(児童福祉法60条2項)の一部
    • 不法入国、不法上陸、不法残留、不法在留の罪(出入国管理及び難民認定法70条1項)
    • 集団密航者を不法入国させる行為等(同法74条)、集団密航者の輸送(同法74条の2)、集団密航者の収受等(同法74条の4)、不法入国等援助(同法74条の6)の一部、難民旅行証明書等の不正受交付(同法74条の6の2第1項1号)、偽造外国旅券等の所持等(同項2号)、営利目的の難民旅行証明書等の不正受交付等(同条2項)、不法入国者等の蔵匿等(同法74条の8)の罪(一部の未遂罪を含む。)
    • 旅券等の不正受交付、自己名義旅券等の譲渡等、他人名義旅券等の譲渡等、偽造旅券等の譲渡等、営利目的の旅券等の不正受交付等の罪またはこれらの罪にかかる未遂罪(旅券法23条)
    • 公務執行妨害・職務強要の罪(刑法95条)
    • 強要の罪(同法223条)の一部

3、偽証罪の教唆との違い

証人等買収罪と似た犯罪として偽証罪の教唆というものがあります。証人等買収罪と偽証罪の教唆とはどのような違いがあるのでしょうか。

  1. (1)偽証罪の教唆とは

    偽証罪の教唆とは、その言葉のとおり偽証の教唆を行う犯罪です。

    偽証罪とは、法律によって宣誓した証人が虚偽の陳述をすることを取り締まる犯罪です(刑法169条)。「法律により宣誓した証人」とは、刑事裁判や民事裁判などにおいて法律に基づいて宣誓をした証人のことをいい、証人には被告人本人は含まれません。

    また、「虚偽の陳述」とは、体験した事実に関する自己の記憶とは異なる事実を陳述することをいうといわれています。そのため、自己の記憶どおりに陳述した結果、その事実が客観的事実に反していたとしても偽証罪に問われる可能性は少ないと考えられます。

    このように、偽証罪の主体は、証人とされていますが、被告人自身も証人を唆して偽証を行わせた場合には、偽証罪の教唆が成立します。偽証罪および偽証罪の教唆の罰則は、3か月以上10年以下の懲役と規定されています。

  2. (2)偽証罪の教唆と証人等買収罪の違い

    偽証罪の教唆と証人等買収罪は、虚偽の証言などによる司法妨害を防止することを目的としている点では共通しています。

    しかし、偽証罪の教唆は、証人の偽証それ自体を対象としているのに対して、証人等買収罪は、証人などに対して現金などの不当な利益を提供する行為などを処罰の対象としています。そのため、証人等買収罪は、偽証などを持ちかけて報酬として利益を供与するなどした時点で処罰が可能になりますので、実際に裁判が行われる前から適用することができるという違いがあります。

4、刑事事件にかかわったら、まずは弁護士へ相談

証人等買収の罪にかかわらず、ご自身が何らかの犯罪に関与してしまったという場合には、早めに弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)有利な処分を獲得できるようにサポートができる

    犯罪の疑いをかけられてしまうと、場合によっては、逮捕・勾留によって身柄が拘束されてしまう可能性があります。逮捕・勾留をされると最長で23日もの間、警察署の留置施設で身柄拘束を受けることになりますので、それによる不利益は非常に大きなものとなります。

    また、起訴されて有罪判決を受けた場合には、たとえ執行猶予となり刑務所に収監されることがなかったとしても、前科があることによって日常生活や就職にも制限が及ぶ可能性があります。

    早期に弁護士に相談をすることによって、弁護士が被害者との間で示談をまとめたりすることによって、早期の身柄解放や不起訴処分の獲得が可能になることがあります。弁護活動を早期に開始することによって、有利な処分を獲得できる可能性が高まりますので、早めに相談に行くことが大切です

  2. (2)刑事事件の流れや取り調べの対応をアドバイスしてもらえる

    犯罪の嫌疑をかけられるのは人生で初めてという方がほとんどです。そのため、自分が当事者となってしまったとしても、どのように対応してよいかわからないという方が圧倒的に多いといえます。慣れない取り調べを受けていると、早く楽になりたいという気持ちから捜査官の誘導に従って、やってもいないことを認めてしまうこともあります。

    しかし、刑事事件では、捜査段階で自白をしてしまうと、その内容に誤りがあったとしても、刑事裁判において自白を覆すことは非常に難しいとされています。

    弁護士に相談をすることによって、刑事事件の流れをつかむことができます。刑事事件の全体像が見えていることによって、今後どうなるかわからないという不安もある程度は解消されるでしょう。また、取り調べについての具体的なアドバイスを受けることによって、不利な自白をしてしまうという事態を回避することができます

    刑事事件に関与してしまって不安な気持ちを抱いている方は、早めに弁護士に相談をするとよいでしょう。

5、まとめ

証人等買収罪は、組織犯罪処罰法の改正によって新たに設けられた犯罪類型です。従来の偽証罪の教唆では、処罰することができなかった行為についても処罰が可能になりましたので、ご自身で安易に行動をして罪を重ねる前に弁護士に相談をすることが大切です。

刑事事件に関与してしまったという方は、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています