野菜は大麻、アイスは覚醒剤、手押しは? 薬物の隠語、売買等の罪を解説
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大阪府警のホームページで公開されている情報によると、令和3年中に大阪府内で薬物事犯によって検挙されたのは1480人でした。違反を種類別にみると、覚醒剤事犯は986人で前年より85人減少していますが、大麻事犯は464人で前年比9人、平成29年からは何と224人も増加しています。
違法薬物といえば覚醒剤をイメージする方が多いかもしれませんが、近年の事例では大麻・麻薬・向精神薬などの検挙が増加している状況です。これらの違法薬物に関する事案の検挙が増加している背景には、SNSなどで売買の情報が簡単に入手できるという環境も影響していると思われます。SNSで「野菜」や「手押し」、「アイス」といった違法ドラッグを指す隠語で検索すると簡単に情報が手に入るので、未成年の学生でも違法薬物を入手できてしまうのです。
このコラムでは、違法薬物の取引で使われる「野菜」「手押し」「アイス」などの隠語の意味や、違法薬物の所持や使用などで問われる罪・刑罰について、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスの弁護士が解説します。
1、違法薬物の取引には隠語が使われる
違法薬物の取引では、薬物の名称をそのまま使うことが避けられて隠語が使われてきました。
「シャブ」や「マリファナ」といった隠語は、ドラマや映画、小説などでもよく登場するので知っている方も多いでしょう。
まずここでは、違法薬物の取引に使われている隠語の意味を解説します。特に、最近の取引で使われることが多いSNS上での隠語に注目していきましょう。
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(1)野菜
SNSの投稿で、ハッシュタグなどに「野菜」というキーワードがあれば、それは「大麻」の取引を意味しています。
大麻の取引には、古くから「葉っぱ(はっぱ・ハッパ)」や「草」といった隠語が使用されており、緑色の植物を連想させることから「野菜」という隠語に発展しているようです。 -
(2)アイス
「アイス」とは「覚醒剤(覚せい剤)」を意味する隠語です。
覚醒剤は、使用すると血管全体に冷たい感覚が走ることから「冷たいもの」という隠語が使用されているので「冷たい」という感覚から連想できる隠語として新たに浸透しています。 -
(3)手押し
「手押し」とは、売人と会って直接取引することを意味しています。
直接取引のほうが安心できると感じる人も少なくないようですが、取引の現場を警戒中の捜査員に見つかってしまえば現行犯逮捕されてしまうため、非常に危険な取引方法だといえるでしょう。 -
(4)そのほかの隠語
ここで挙げたもののほかにも、違法薬物の取引にはさまざまな隠語が登場します。
代表的な隠語は次のとおりです。
● 覚醒剤
シャブ・スピード・エス・ラッシュ・アッパー・ヒロポン
● 大麻
マリファナ・ハシシ・ジョイント・グラス・ウィード
● ヘロイン
H・ジャンク・ガム
● コカイン
C・クラック・コーク・ホワイト
● LSD
アシッド・ペーパー・ラブレット
● MDMA
E・エクスタシー
ほとんどの隠語が、薬物の効果や形状、色などに由来しています。つまり、新しいタイプのものが流行すると、さらに新たに隠語が生み出されるわけです。
2、違法薬物の売買で問われる罪
違法薬物事犯は、その種類に応じて適用される法律が異なります。
- 覚醒剤……覚醒剤取締法
- 大麻……大麻取締法
- LSD・MDMAなど……麻薬及び向精神薬取締法
これらの法律は、それぞれ規制する薬物が異なりますが、いずれも営利目的で違反するとより厳しい処罰が下されるという特徴があります。
営利目的で売買行為にいたった場合の罪状や罰則を確認していきましょう。
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(1)覚醒剤取締法違反
覚醒剤を営利目的で所持・譲渡・譲受した場合は、覚醒剤取締法第41条の2第2項の定めによって、1年以上の有期懲役に科せられます。有期懲役の上限は20年なので、最低でも1年間、最長では20年間の懲役を受けることになるでしょう。
なお、同条では情状によって1年以上の有期懲役に加えて500万円以下の罰金が科せられます。営利目的で多数の取引を重ねてきた、多額の犯罪収益を得ていたといったケースでは、懲役に加えて罰金も徴収されるおそれがあります。 -
(2)大麻取締法違反
大麻を営利目的で所持・譲受・譲渡した場合は、大麻取締法第24条の2第2項の規定によって7年以下の懲役が科せられます。また、情状によってさらに200万円以下の罰金も加えられます。
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(3)麻薬及び向精神薬取締法違反
LSDやMDMAなどの合成麻薬を営利目的で譲受・譲渡・交付・所持すると、麻薬及び向精神薬取締法第66条第2項の定めに従って1年以上10年以下の懲役が科せられます。
情状によってさらに300万円以下の罰金が加えられるのも、ほかの薬物の場合と同じです。
3、違法薬物の所持・使用で問われる罪
SNSの投稿をみて違法薬物の売人とコンタクトを取り、覚醒剤・大麻・LSDやMDMAなどを購入して所持したり、自らの身体に接種したりすると、厳しい刑罰が科せられます。
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(1)覚醒剤取締法違反
覚醒剤をみだりに所持・譲渡・譲受した場合は、覚醒剤取締法第41条の2第1項の定めによって10年以下の懲役が科せられます。
また、覚醒剤製造業者や覚醒剤施用機関において診療に従事する医師・研究者など、特別な許可を受けて使用する者ではない者が覚醒剤を使用した場合は、同法第41条の3第1項の規定によって10年以下の懲役が科せられます。 -
(2)大麻取締法違反
大麻をみだりに所持・譲受・譲渡した者には、大麻取締法第24条の2第1項の規定に従って5年以下の懲役に処されます。
なお、大麻取締法では、自己使用を禁止する規定はありません。
違法薬物としての大麻は、有効成分を多く含む大麻の葉や花を原料としており、これらの使用は法律の趣旨としては禁止されるべきところです。ところが、規制対象外となっている成熟した茎や種子にも微量ながら有効成分が含まれており、しかもこれらは香辛料などに多用されているため、日常生活のなかで摂取しているおそれがあります。
これでは、検査や鑑定によって大麻成分が検出されても、禁止されている葉や花を摂取したのか、それとも禁止対象外の成熟した茎や種子を摂取したのかがわかりません。
このような理由で自己使用は処罰の対象とされていませんが、使用が疑われればその前提として所持が疑われるのは当然でしょう。「大麻は危険ではないので使用は罰せられない」と考えるのは間違いです。
使用が発覚すれば所持の立件に向けた捜査を受けることになると心得ておく必要があります。 -
(3)麻薬及び向精神薬取締法違反
LSDやMDMAなどをみだりに譲渡・譲受・交付・所持した場合は、麻薬及び向精神薬取締法第66条第1項の規定によって7年以下の懲役が科せられます。
また、麻薬は許可を受けた麻薬施用者のみに施用が認められており、自己使用は禁止されています。
自己使用は、同法第66条の2第1項によって7年以下の懲役に処されます。
4、違法薬物事犯で逮捕された後の流れ
違法薬物事犯で逮捕された場合は、通常、次の流れで刑事手続を受けます。
- 逮捕~送致
- 勾留請求
- 勾留
- 起訴・不起訴
- 刑事裁判
警察に逮捕されると、48時間の時間制限がスタートします。
この期間は、警察署の留置場に身柄を拘束されたうえで、捜査員による取り調べが実施されます。
取り調べを終えると、逮捕された被疑者の身柄は検察官へと送致されます。
ニュースなどで「送検」と呼ばれるのはこの段階です。
送致を受けた検察官は、自らも被疑者を取り調べたうえで起訴・不起訴を判断します。ただし、この段階では起訴・不起訴という重大な決定を下すための決定的な証拠は確保できていません。
そこで検察官は、裁判官に対して「さらに身柄を拘束する必要がある」として身柄拘束の延長を求めます。この手続きを勾留請求といいます。
勾留が認められると、原則10日間、延長請求が認められればさらに10日間の、合計20日間を限度に身柄拘束が続きます。
被疑者の身柄は警察に戻されて、事件に関する詳しい取り調べが実施されます。
勾留が満期を迎える日までに、検察官は起訴・不起訴の最終判断を下します。
厳しく処罰する必要があると判断されれば起訴され、刑事裁判へと移行しますが、処罰は必要ないと判断されれば不起訴処分となり即日で釈放されます。
起訴されると、これまでは被疑者であった立場が「被告人」に変わります。
被告人になった段階で保釈の請求が認められますが、保釈が認められない場合は刑事裁判が結審する日までさらに被告人として勾留されるため、長い身柄拘束が続くことになります。
5、まとめ
違法薬物の取引には、まるで危険性がないものかのようなイメージのある隠語が使われています。
SNSなどでキーワードを検索すると簡単に違法薬物の売人とコンタクトを取ることが可能ですが、安易に違法薬物に手を出してしまうと法律に違反してしまい、逮捕され、また、刑罰を受けることになるでしょう。
違法薬物事犯は「被害者なき犯罪」だといわれています。窃盗や暴行・傷害といった一般的な刑事事件のように、被害者との示談交渉による解決は期待できません。
薬物との決別や更生に向けたアクションによって有利な処分を目指すことになるので、経験豊かな弁護士のサポートは欠かせません。
違法薬物事犯の容疑をかけられてしまい、逮捕・刑罰に不安を抱えているなら、解決はベリーベスト法律事務所 大阪オフィスにお任せください。
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