覚醒剤で逮捕されたらどうなる? 覚醒剤取締法の罰則と量刑、特徴
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令和2年10月、大阪府警は密売目的で覚醒剤などを所持していた覚醒剤取締法違反の疑いで、男女6人を逮捕し送検したと発表しました。
日本では覚醒剤(覚せい剤)の所持や使用、輸出入などは覚醒剤取締法で禁じられており重い刑罰が科される可能性があります。本コラムでは、覚醒剤取締法の罰則や量刑の決め方、特徴や弁護の方針などを大阪の弁護士が解説します。
1、覚醒剤取締法の罰則
覚醒剤取締法は、使用・所持・譲渡・譲受・輸入・輸出・製造のいずれかに該当すると逮捕される可能性があり、それぞれ異なる処罰を受けることになります。ここでは、覚醒剤取締法の各罰則を解説します。
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(1)使用・所持
覚醒剤を自分で使うために所持していた場合は、10年以下の懲役刑と定められています。
「所持」とは、持ち歩いているという状態だけではありません。自宅や車、会社の机など自分の管理下に保管しうる状態にした場合も所持とみなされます。
「使用」とは自己や他人の身体への使用は勿論、研究や薬品製造のために使用する場合も含まれています。尿検査で陽性反応が出た場合には逮捕されることになります。尿検査の結果は、状況によって異なりますが、おおむね数時間程度で結果がわかります。
覚醒剤を、知人からもらった、知人にあげたなどの譲受・譲渡の場合も使用や所持と同様に懲役10年以下の罰金が科せられることになるでしょう。 -
(2)輸入・輸出・製造
覚醒剤を個人の使用目的で輸入や輸出・製造した場合は、1年以上の有期懲役と定められています。
罰金刑の設定はありません。有期懲役の上限は20年なので、最長20年の懲役を言い渡される可能性がないわけではありません。 -
(3)営利目的での所持・使用
覚醒剤の所持・使用・譲渡・譲受が営利目的の場合は1年〜20年の有期懲役となります。場合によっては500万円以下の罰金が併科されることもあります。併科とは、同時に2つの刑罰を科することを指します。つまり、有罪になれば刑務所に収監されるだけでなく、罰金も支払わなければならない可能性がないわけではありません。
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(4)営利目的での輸入・輸出・製造
覚醒剤の輸入・輸出・製造が営利目的の場合における決定刑は無期限または3年以上の懲役で、1000万円以下の罰金も科される可能性があります。
覚醒剤で罪に問われるとき、営利目的かどうかによって科される刑が大きく異なることになることを知っておきましょう。
2、覚醒剤で逮捕された場合の量刑
覚醒剤取締法に規定されている刑罰は、前述のとおり各刑罰に大きな幅が持たされています。では、裁判ではどのように量刑が決められるのか、ご存知でしょうか。裁判所が量刑を決める際、4つの観点から判断されるケースがほとんどです。
●薬物犯罪の前科の有無
覚醒剤をはじめとする薬物犯罪は、再犯率が非常に高く、更生の可能性が低いとされる犯罪の1種です。したがって、以前にも覚醒剤取締法違反などの薬物犯罪で逮捕・有罪となったことがある場合は、量刑に多大な影響を与えます。
●使用量や使用期間、所持量など
覚醒剤を多く所持していた、長期間使っていた、たくさん使用したなどの「高い依存度」が推定できる場合は、罪が重くなる可能性があります。
●再犯の可能性
再犯率が高い覚醒剤取締法違反においては、再犯の可能性があるかどうかも量刑の判断に大きな影響を与えます。覚醒剤からの脱却をサポートする体制が整っていれば、有利に働くこともありますが、覚醒剤を容易に入手できる環境であると判断されると罪が重くなる可能性があるでしょう。
●営利目的で所持していたかどうか
覚醒剤取締法においては、所持目的が「単純所持」なのか「営利目的」なのかによって明確に刑罰が区別されています。前述のとおり、営利目的で所持していた場合は量刑が重くなります。
3、覚醒剤事件の特徴
覚醒剤事件は「被害者不在であること」や「逮捕・勾留されやすい」という特徴があります。ここでは覚醒剤事件固有の特徴について解説します。
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(1)示談ができず、不起訴になることが難しい
傷害事件や窃盗事件などは必ず被害者が存在しますので、被害者と示談を成立させることで不起訴処分となることもあります。しかし、覚醒剤事件には被害者がいないため、示談は不可能です。
このことから、覚醒剤事件は、被害者の処罰感情が和らいだなどの事情を主張できず、情状酌量してもらうための活動をしにくい面があります。覚醒剤取締法違反で、不起訴になる可能性があるのは「覚醒剤と知らずに所持していたこと」が立証できた場合など限られたケースです。 -
(2)ほとんどの確率で勾留される
勾留とは、逮捕後も引き続き身柄の拘束を続ける処分を指します。勾留が決定したら自宅に帰ることができません。
痴漢の事件などは、罪を認めていれば勾留せずに在宅事件になることもありますが、覚醒剤事件は、関係者と口裏合わせをする、覚醒剤を処分してしまい罪証隠滅の可能性があるとみられて、勾留されることがほとんどです。勾留回避のために働きかけても認められないケースがほとんどです。
4、覚醒剤事件の弁護方針
最後に覚醒剤事件の弁護方針について解説します。覚醒剤においては、不起訴を目指すのではなく、より軽い量刑を目指すこと、起訴決定後は速やかに保釈請求を求めることが主な弁護活動になります。
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(1)罪を認める場合
覚醒剤の所持などの罪を認める場合は、 逮捕後速やかに弁護士に弁護活動を依頼しましょう。
逮捕後の72時間は、たとえ家族であろうと面会はできません。弁護士以外は接見できず、孤独な中で取調べが行われます。取り調べの際に発言した内容は取調べ調書に記録され、起訴・不起訴の判断や、裁判の際の重要な証拠となります。しかし、中には厳しい取調べに耐えきれず、不利な自白をしてしまう方も少なくありません。
したがって、早い段階で弁護士を委任して、接見を依頼することは非常に重要なことです。弁護士は、この後の状況が不利になってしまわないよう、取り調べの受け方などについてアドバイスすることができます。
また、依頼を受けた弁護士であれば、裁判に備えて「贖罪寄付(しょくざいきふ)」を行う際の対応も可能です。贖罪寄付とは、被害者が存在しない事件や被害者が不特定多数におよび確定できない事件において行われるもので、反省の気持ちを寄付にあらわすものです。
さらには、再犯しないための環境を構築するなど、具体的なサポートの方法についてご家族にアドバイスすることもできます。たとえば更生施設への入所を決める、家族のサポート体制を整えるなどの状況を、冷静な視点を持つ弁護士が正しく主張することで、重すぎる罪を科されないようになる可能性があります。
弁護士はこれらのサポートを含めて弁護活動を行います。逮捕のタイミングから弁護を依頼しない場合は、初動が遅れますので、できることが限られてしまう可能性があるでしょう。できるだけ早期に弁護士に相談することをおすすめします。 -
(2)無実を主張する場合
覚醒剤事件は、多くのケースで警察が証拠を確保しています。使用の場合は尿検査で覚醒剤成分が検出されていますので、無罪を主張することは難しいでしょう。しかし、覚醒剤と知らずに所持していた場合は、覚醒剤取締法の「所持」とはみなされませんので、無罪を主張できる可能性があります。
その場合は弁護士と綿密な打ち合わせを行った上で、覚醒剤と認識していなかったと主張しなければなりません。覚醒剤取締法違反の起訴率は77.7%と非常に高く、逮捕されたら起訴を免れるのは非常に困難です。また、覚醒剤取締法違反だけでなくすべての刑事事件において、裁判が開かれた場合の有罪率は99.9%で、裁判になればほぼ有罪となり、前科が付くことになります。
覚醒剤取締法違反において、不起訴や無罪を勝ち取ることは非常に困難といえるでしょう。覚醒剤所持容疑で逮捕されてしまっても、心当たりが一切ないときは、逮捕後なるべくはやく弁護士に連絡をとり、今後の流れや無罪の見込みについて相談しましょう。
5、まとめ
覚醒剤取締法違反は、起訴率が高く、逮捕されると高確率で刑事裁判が開かれることになります。また、逮捕後は勾留されることがほとんどで、長期にわたる身柄拘束を受けることによって、社会生活の基盤を失うことになりかねません。
そのような事態に陥らないためにも、弁護士にいち早く弁護活動を依頼し、起訴後の保釈を求めることや、罪の軽減を求めることが重要です。
覚醒剤事件で逮捕された方、逮捕される可能性がある方、またはそのご家族は、ベリーベスト法律事務所 大阪オフィスへご相談ください。覚醒剤事件においては逮捕された後の初動段階のスピード感が今後の人生を大きく左右するといっても過言ではありません。刑事事件に対応した経験が豊富な弁護士が、適切な弁護活動を行います。
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