父親が内縁の妻に遺産相続させると言ってきた! どう対処法すべきか

2020年01月14日
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父親が内縁の妻に遺産相続させると言ってきた! どう対処法すべきか

ひと昔前ではあまりなじみがなかった「事実婚」という用語がいまや広く社会に浸透しています。長く一緒にいても、「共に生活を共にしても入籍はしない」というスタイルが広まりつつあります。事実婚を選択する理由には、お互いに法的な責任を負いたくないという現代的な考え方もあれば、一度離婚を経験してから結ばれた男女では、以前の家庭に残した子どもへの配慮などで婚姻届を提出しないというケースもあるようです。

そんな中、千葉市では、事実婚であっても公的にパートナーとして認める制度が平成31年1月29日から施行されており、行政でも事実婚を尊重する流れになりつつあります。
なお、「事実婚」、すなわち婚姻届を提出しないものの男女が婚姻の意思を持って夫婦同然に生活を共にすることを法律上では「内縁関係」といいますが、実は内縁関係をそのまま続けると、さまざまな問題が生じる可能性があります。特に問題となりやすいのが「相続」です。

本コラムでは、内縁関係者に生じる相続問題について、大阪オフィスの弁護士が解説します。

1、内縁の妻に相続権はある?

まず、内縁関係にある者と、婚姻関係にある者との違いについて知っておきましょう。

  1. (1)内縁と婚姻との違い

    婚姻届を出していないものの、男女が婚姻の意思を持って共同生活を営み、社会的には夫婦と認められる実態を有している状態を内縁といいます。愛人などと同一視されやすいようですが、愛人関係はどちらかに婚姻中の配偶者がすでにいるために、法的に婚姻が認められない状態を指します。

    つまり、内縁関係とは、実質的には夫婦であるかのように日常を過ごしているものの婚姻届を出していない、いわゆる事実婚状態の方を指すことになります。繰り返しになりますが、婚姻届を提出していないため法律上は妻として認められることはありません。したがって、婚姻している妻に比べて、法的に受けられるメリットは少ないといえるでしょう。

  2. (2)婚姻と共通する事項

    内縁関係については、過去の裁判例においても「婚姻に準ずる関係」と認められています。そこで、以下の項目について、婚姻している者と同様の権利義務があると考えられます。

    ●貞操義務
    夫婦は互いに、相手の信頼を裏切って浮気や不倫をしてはいけないという義務を負います。

    ●扶養義務
    夫婦は経済的に協力し合い、どちらかが経済的に自立できない場合は支援する義務、いわゆる扶養義務を負います。

    ●婚姻費用の負担義務
    生活費や子どもの教育費など、夫婦生活に必要な費用は、ふたりで分担するという義務のことです。

    ●同居協力の義務
    内縁関係であっても、夫婦は同居して暮らす義務を負います。

    他に、以下のような権利が認められる可能性があります。

    • 遺族年金の受取り
    • 労働災害の遺族補償の受取り
    • 死亡退職手当の受取り

    ただし、これらは、雇用契約を結んでいる会社などによって規定が異なります。一般的には、主たる生計維持者が亡くなったことによる遺族の生活の保障を目的としていると考えられるため、生活を共にしている事実がなければ認められません。

  3. (3)婚姻と異なる事項

    逆に、以下の項目については、内縁の者は婚姻している者とは異なる取り扱いを受けます。

    ●法定相続人にはなれない
    法定相続人とは、民法によって定められた相続人のことです。民法第890条において、被相続人の配偶者は常に相続人となると定められています。しかし、内縁の妻についての規定は存在しないため、相続権は発生しません。

    ●子どもは非嫡出子となる
    結婚している男女の間に生まれた子どもは、母親と婚姻関係にある男性が当然に父と推定され、親子関係が成立します。しかし、内縁関係の男女間に生まれた子どもは「非嫡出子」(=「婚外子」)となり、たとえ実の父親が母親と同居したとしても親子関係は成立しません。

    内縁の夫と子どもとの間に父子関係を成立させるためには、認知の手続きが必要になります。したがって、認知の手続きがない場合、子どもに当然には相続権はありません。ただし、認知の手続きがないまま父親が亡くなったとしても、死後認知が認められれば相続権が発生することになります。

2、内縁の妻が遺産を取得できるケース

前述したように、被相続人と内縁の妻とは法律が認めた婚姻関係にはないため、相続権は発生しません。しかし、一定の条件を満たせば、遺産を取得できることがあります。

  1. (1)遺言

    被相続人が遺言書を作成していた場合、故人が最期に示した意思として尊重されます。つまり、民法に規定された法定相続分よりも優先されることになるでしょう。ただし、遺言の内容が事実と大きくかけ離れていたり、法に定められている方法で作成されなかったりした場合は、協議の末、法定相続分どおりに相続されてしまう可能性がありえます。

  2. (2)特別縁故者

    次に考えられるのが、内縁の妻が特別縁故者として認められる場合です。

    被相続人が故人となり、民法で規定されている法定相続人がひとりもいない状況であれば、家庭裁判所が認定すれば特別縁故者として遺産の分与がされます。

3、内縁の妻の遺産取得と対処法

繰り返しになりますが、内縁の妻に相続権は発生しません。

しかし、遺言書がある場合は、故人の意思が尊重されるため、遺産を取得できます。もし、残された血縁者が遺言の内容に納得いかない場合は、早々に弁護士に相談されることをおすすめします。

遺言はその内容すべてがそのまま認められるわけではなく、一定の制約があります。そこから、期待していた遺産を取り戻せる可能性があるかもしれません。

  1. (1)遺留分

    たとえば、「遺産はすべて内縁の妻に相続させる」という遺言があった場合、実子であれば不満を感じるでしょう。その場合は「遺留分」を主張することで、自身の相続権を守ることができます。

    遺留分とは、一定の相続人に対して最低限の相続分を確保するための制度です。一定の相続人が家庭裁判所に対して遺留分減殺請求を行うことで、最低限の法定相続分を確保することが可能になります。

    もし、遺言書の内容に従ってすでに内縁関係者が全財産を相続していた場合でも、法定相続人が遺留分を主張して相当額の支払いを求めれば、内縁関係者はこれに応えなければなりません。

    このように、遺言書によって内縁関係者に遺産相続が発生した場合は、遺留分の主張によって自らの相続分を確保することが可能になります。ただし、今回の場合、遺留分が認められるのは、被相続人からみて両親(直系尊属)と子ども(代襲相続あり)だけです。法定相続の順位としては第3位である兄弟姉妹には遺留分の請求は認められないことにも留意しておきましょう。

  2. (2)遺産分割協議

    遺言の効力は絶対的なものかと考えられがちですが、実はそうではありません。前述のとおり、家屋や財産など、残されたものが現実的に分割や処分に困った場合は、相続人全員の合意によって、内容を変更することができるのです。

    ただし、全員の署名と押印が必要になるため、話し合いが難航した場合は手続きが長引く可能性があります。

  3. (3)弁護士に相談する

    もし、内縁の妻を重んじる父の遺言があった場合は、自分の相続財産をどのように確保するかを考えていかねばなりません。しかし、遺留分を請求する場合は時効が最短で1年と短く、迅速な対応が求められます。そのようなときは、弁護士に相談しましょう。

    相続問題に詳しい弁護士であれば、遺言書が有効なものかについて精査できますし、有効であった場合も生前贈与などがなかったかを調べて、正確な遺留分を算出しなおすことができるでしょう。また、遺産分割協議を行う際にも法律問題に詳しい第三者である弁護士があれば、話し合いがスムーズに進むことが期待できます。

4、まとめ

親が内縁関係者と生活を共にしており、先々には内縁関係者との遺産相続問題が起こりうる方に向けて、内縁関係者と相続の関係について解説しました。内縁関係者には相続権が発生しません。しかし、遺言書があれば、内縁関係者の手に多くの財産が渡ることが予想されます。

遺産相続に関してご不安がある方は、早急に弁護士に相談して遺留分を主張するなど、ご自身の相続財産を守る行動をとるようにおすすめします。ベリーベスト法律事務所大阪オフィスでは、相続問題の知見が豊富な弁護士が在籍しています。遺産相続について問題を抱えている方は、所属の弁護士がお悩みを解消するために尽力しますので、まずはお気軽にご相談ください。

ご注意ください

「遺留分減殺請求」は民法改正(2019年7月1日施行)により「遺留分侵害額請求」へ名称変更、および、制度内容も変更となりました。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています